• 2023.03.28
  • 声明・決議・意見書

出入国管理及び難民認定法改正案に反対する会長声明

 政府は、2021年に廃案となった出入国管理及び難民認定法改正案(以下、「旧法案」という。)を、その骨格を維持したまま、2023年3月7日に通常国会に再提出した(以下、「改正案」という)。

 旧法案は、①難民条約のノン・ルフールマン原則に反するおそれがある難民申請中の送還停止効の例外を導入し、②入管施設への収容に関して収容期間の上限設定、収容に対する実効的な司法審査の導入をいずれも見送り、③必要性や相当性が認められないにもかかわらず被退去強制者に対して刑罰をもって退去を強制する送還忌避罪や仮放免逃亡罪を創設するなど、多くの深刻な人権保障上の問題点を含んでいた。
 この旧法案は、収容・送還に関する専門部会が2020年6月19日に発表した「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」が前提となっているが、当会は、同提言に対して、送還忌避罪の創設、送還停止効の例外の導入、収容期限の上限を定めない制度の維持および仮放免逃亡罪の創設について反対の意見を述べたところである(2020年7月17日付け「『送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言』に対する会長声明」)。

 そして、旧法案が廃案となった後も、日本の入管・難民制度に対しては、国連自由権規約委員会から、2022年11月30日、第7回政府報告書審査の総括所見において、日本の難民認定率の低さについて懸念が示され、国際基準に則った包括的な難民保護法制の導入が勧告されている。
 また総括所見は、収容期間に上限を設けることや、実効的な司法審査が受けられるようにすることについても勧告している。

 しかし、再提出された改正案は、一部旧法案に修正を加えているものの、旧法案の骨格を維持している。
 第一に、包括的な難民保護法制が未整備であるにもかかわらず3回目以降の難民認定申請者等について原則として送還停止効を解除するとしていることは、ノン・ルフールマン原則に反する結果が生じるおそれがあるといわざるをえない。3回目以降の難民申請でも難民等と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出した場合には送還停止効が維持されるとの例外規定が設けられているものの、難民等と認定すべき「相当の理由がある資料」の提出があったか否かを裁判所等の第三者が審査するものではなく、例外にあたることを理由に送還停止効の解除を争う制度も設けられていない。
 第二に、改正案は、入管施設に収容されている者について、3か月毎に収容継続の適否を出入国在留管理庁において判断することとしているが、収容期限の上限を設けるものではなく、収容に実効的な司法審査を導入するものでもない。
 第三に、収容に代わる監理措置に関しては、「収容によりその者が受ける不利益の程度その他の事情を考慮し」て出入国在留管理庁の主任審査官が措置の実施を判断することとなっており、司法機関等が関与して収容の必要性・相当性を検討して行うものとはなっていない。また、監理人(支援者、難民申請や在留許可申請手続の代理人弁護士などが監理人となることが想定されている)の定期的な報告義務は削除されたものの、主任審査官が生活状況等の報告を求めたときなどには、監理人には制裁を伴う報告義務が課されることとなっており、支援する立場にある弁護士や支援者を、被監理者の生活状況等を監視し、当局に報告するという相容れない立場に立たせることとなる。

 改正案は、上記の問題に加えて送還忌避罪・仮放免逃亡罪の創設などの多くの深刻な問題を含むものであり、国連自由権規約委員会の総括所見でも指摘されている問題を解消したものでもない。したがって、当会は、これらの深刻な問題が抜本的に修正されない限り、本改正案には反対である。

2023年(令和5年)3月28日
            第一東京弁護士会 
会長   松 村 眞理子

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