プロボノ活動の経験談 第2回

田代夕貴(第一東京弁護士会)

probono2.jpg プロボノ活動を通じて、
弁護士として、
社会をよりよくする活動に参画することの魅力

田代夕貴 会員

私が外国人支援の活動を始めたのは、大学院生のころ、シリア人支援のためにヨルダンでNGOインターンをしたことがきっかけでした。以来、多くの庇護申請者の方に出会う中で、弁護士になっても、国籍を問わず国を追われた方々の日本での再出発を支援したいと考えていました。
その折、難民支援協会様(JAR)代表の石川えり様や、実際にプロボノで難民支援をされている弁護士の方々にお会いできたご縁で、弁護士1年目から難民支援業務に携わるようになりました。
現在私は弁護士5年目になりますが、アフリカや中東を中心に計8名の支援に携わっています。具体的には、庇護申請者からの迫害事由の聞き取り、陳述書・意見書の作成、出身国の人権状況の調査、証拠整理・翻訳等を行い、依頼者が難民申請や再審査において適切に主張を展開できるよう支援する活動を行っています。JARそして難民支援をされている弁護士の方々からのサポートも手厚く、初回の活動では指導担当の弁護士と一緒になって難民支援に取り組むことができましたし、事務所内でも先輩弁護士の指導を受けられており、安心して活動に取り組むことができています。

難民支援業務は比較的時間もかかるので、弁護士業務との両立は少し大変ですが、3つの魅力があります。
第一に、苦難を乗り越え、日本で再出発される庇護申請者の方々に出会えることです。私の依頼者は、政治的活動や民族性を理由に逮捕・身体的迫害を受け、あるいは内戦により家族がバラバラで行方不明になる等大変なご事情を抱えながらも、どの方も困難の中で力強く、優しく、明るく対応されています。深刻な状況でも前向きに進まれる方々を間近に見て、背筋を正し、自分の生き方や仕事ぶりを見つめなおす貴重な機会となっています。
第二に、プロボノ活動を通し、多くの貴重な出会いがあることです。これまで難民分野の第一人者の弁護士や、第一東京弁護士会の外国人部会の弁護士の方々にご助言をいただいたり、案件をご一緒する貴重な機会をいただきました。また、難民支援業務では、調査等で先輩、同期及び後輩の弁護士と事務所内外を問わず活動することも多いのですが、異なる分野を取り扱う弁護士と協同する中で、仕事への姿勢や新たな着眼点を学ぶことができ、多くの刺激をいただきました。また、JAR、社会福祉士など関係者の方々が、熱心に暖かく支援を続けられる姿や、そのプロフェッショナルな仕事ぶりに感銘を受けました。
第三に、国際的な人権感覚が養われることです。2020年の日本のビジネスと人権に関する国別行動計画の策定及び各国のハードローの制定等を受け、昨今「人権」の問題はビジネスの中でも重要な考慮事項の一つとなり、依頼者より人権指針の策定や人権DDの方針のご相談等を受けることも多くなりました。難民支援業務は、サプライチェーン等の企業のビジネス上の関係のどこでどのような問題が起きうるかのリスク分析にダイレクトに役立ちますし、難民支援業務の中で自然と身についてくる国際人権条約規範に関する知識や、国際的な人権感覚は、国内外で起こりうる人権侵害を分析することに役立ちます。

また、ここでは紹介しきれないものの、私は難民支援業務以外にも様々なプロボノ活動に取り組んでいます。ご一緒する弁護士には、法律事務所に限らず、企業の法務部等に所属されるインハウスの方々も多くいらっしゃいます。社会には、プロボノ弁護士の力を必要とするNGOや団体が多く存在するため、若手弁護士でも関心をもって情熱を傾けられる社会課題に関わる活動がきっと見つかると思います。

第一東京弁護士会では、公益活動運営委員会を中心に、プロボノ活動を支援する仕組みが整備されていますし、私が所属する法律事務所でも、事務所全体として積極的なプロボノ活動が推奨されており、私のような若い世代の弁護士にとっても、より一層プロボノ活動に励みやすい素地があります。
様々な分野でのプロボノ活動を通じて、弁護士として社会をよりよくする活動が広がればと思います。私自身も微力ながら、今後もプロボノ活動を続けることでその一助を担えればと考えております。

田代夕貴 会員

2017年、当会に弁護士登録。西村あさひ法律事務所にて、主に国際公法関連業務(特に通商業務)、ビジネスと人権関連業務等に従事。

難民支援協会様(JAR)

probono3.jpg より多くの弁護士さんによる

難民支援活動が広がっていくことを願います

難民支援協会(JAR)
代表理事 石川えり氏

難民支援協会は、難民への支援や保護、また難民を受け入れる社会の構築を目的として、1999年に設立された認定NPO法人です。難民とは、故郷へ戻ると迫害のおそれがある人々のことをいい、現在もなお、母国での危害を逃れて保護を求める多くの難民がいます。当協会は、これまで約70カ国、7千人以上の難民に対してサポートを提供してきました。一人ひとりの難民に向き合い、できる限りの支援をしてきましたが、すべての人に十分な支援ができているわけではなく悩みを抱えながらも活動を行っています。
当協会が取り組んできた難民への支援活動は、生活支援、就労支援及びコミュニティ支援など多岐に及びますが、その中で重要なものとして、法的支援活動(法務大臣から難民認定を受けるために必要な難民申請手続の支援)があります。難民申請における法的支援活動では、難民からの迫害事由の聞き取り、陳述書・意見書の作成、出身国の人権状況の調査や、他国における判例等の検索など、多くの作業が必要となります。
田代弁護士は、以前より当協会の活動に興味を持っていただき、弁護士になられて1年目から、外国から迫害を逃れて日本へ逃れた難民申請者の方の代理人としてご支援いただいています。田代弁護士には、これまで多くの申請者への支援に協力いただいておりますが、申請者ご本人に寄り添った、手厚い支援をしていただき、大変感謝しています。
第一東京弁護士会では、弁護士によるプロボノ活動を積極的に推進されていると伺っており、当協会でも、同会の弁護士が法律事務所からだけでなく、多くの企業の法務部からも、数多く支援活動に参加されています。
難民申請手続は、万一不認定となり母国へ送還されてしまえば本人の生命の危険にも係わるような重大な手続です。しかし、日本における難民認定は非常に厳しいのが現状であり、年間数十人しか認められていません。多くの難民は、弁護士による支援を必要としているにもかかわらず、未だその人数は十分ではありません。
少しでも多くの弁護士の方々が当協会の活動に参加いただき、支援を必要としている人に手を差し伸べてくださることを願っております。

難民支援協会(JAR)

https://www.refugee.or.jp/

1999年設立。日本へ逃れてきた難民の尊厳と安心が守られ、ともに暮らせる社会を目指し活動する。難民申請の手続きや、来日直後の緊急期を含む医食住の支援、自立に向けた就労支援などの直接支援に加えて、地域社会との橋渡しや、政策提言、認知啓発など多様な関係者への働きかけにも力を入れている。年間の支援対象者の出身国は50か国にわたり、来訪相談者数は約300人、相談件数は1,300件以上(2020年度実績)。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所のパートナー団体。

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