第1 意見の趣旨
国に対し、「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)」可決の際の参議院法務委員会附帯決
議(2018年6月12日)に示された施策全ての速やかな実現を求める。
第2 意見の理由
1 はじめに
民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律(成年年齢関
係)」(以下「民法改正法」という。)の施行日(2022年4月1日)まで、あと約1か月とな
った。
一般に社会経験、知識、判断力に乏しい若者はマルチ商法やキャッチセールスなどの悪質商法の
被害に遭いやすいといえるが、未成年者については民法の未成年者取消権により保護されてきた。
しかし、民法改正法施行により18歳と19歳の若者が未成年者取消権の対象ではなくなるため、
上記の悪質商法のターゲットとなって消費者被害が拡大することが懸念される。
2 改正の経緯
民法の成年年齢引下げについての2009年10月の法制審議会の意見は、「成年年齢を18歳
に引き下げるのが適当である。ただし、現時点で引き下げを行うと、消費者被害の拡大など様々な
問題が生じるおそれがあるため、引下げの法整備を行うには、若年者の自立を促すような施策や消
費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である。民法の成
年年齢を18歳に引き下げる法整備を行う具体的時期については、関係施策の効果等の若年者を中
心とする国民への浸透の程度やそれについての国民の意識を踏まえた、国会の判断に委ねるのが相
当である。」とするものであった。
この意見を踏まえ、2018年の通常国会に改正法案が提出され、同年6月に国会で可決成立し
て同年6月20日に公布され、民法改正法の施行日は、成立後約3年10か月という長期の準備期
間をおいた2022年4月1日とされた。
3 参議院法務委員会附帯決議が求める消費者被害防止のための施策
民法改正法の可決成立に際しては、参議院法務委員会において附帯決議がされ、①「知識・経
験・判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して、事業者
が消費者を勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取
消権)を創設すること。」(法成立後2年以内)、②「若年者の消費者被害を防止し、救済を図る
ための必要な法整備を行うこと。」(法成立後2年以内)、③「成年年齢の引下げに伴い若年者の
マルチ商法等による消費者被害が拡大するおそれがあることから、それらの実態に即した対策につ
いて検討を行い、必要な措置を講ずること。」、④『「若年者への消費者教育の推進に関するアク
ションプログラム」に掲げた施策を、関係省庁で緊密に連携して着実に実施し、全国の高等学校・
大学等における実践的な消費者教育の実施を図ること。』、⑤「18歳、19歳の若年者に対する
大学・専門学校、職場、地域における消費者教育を充実すること。」、⑥「施行日までに、上記に
掲げた措置が実施されているか、その措置が効果を上げているか、その効果が国民に浸透している
かについて、効果測定や調査を実施した上で検討し、その状況について随時公表すること。」とす
る事項を含む、合計10件の事項に係る附帯決議がされた。
4 参議院法務委員会附帯決議に示された施策全ての速やかな実現
当第一東京弁護士会は、「民法の成年年齢引下げにより、18、19歳の若年者に消費者被害が
拡大することが予想される。」として、前記改正法案が2018年の通常国会提出前であった
2017年(平成29年)12月25日付にて「民法の成年年齢引下げに伴う消費者被害に関する
会長声明」を発し、「拙速に引下げを進めるべきではなく、慎重な検討を重ねるべきである。仮に
引下げを行うのであれば、18、19歳を含めた若年者の消費者被害に対する十分な施策を行うこ
とを求める。」との会長声明を発している。
民法改正法の施行が約1か月後に迫るところである。
国に対し、民法改正法の可決の際の参議院法務委員会附帯決議に示された施策全ての速やかな実
現を求める。
2022年(令和4年)2月28日
第一東京弁護士会
会長 三 原 秀 哲