• 2016.08.08
  • 声明・決議・意見書

接見室での写真撮影に関する最高裁決定についての会長談話

 本年6月15日、最高裁判所第二小法廷は、接見妨害を理由とする国家賠償請求訴訟について、上告及び上告受理申立を退ける決定をした。

 本件は、東京拘置所において接見をしていた弁護人が、被告人の健康状態に異常が存在する状況を発見し、面会室内で写真撮影及び録画をしたところ、その接見及び写真撮影・録画を中断させられた上、強制的に被告人との接見を中止させられた事案である。

 本件については、東京地裁民事第39部が原告の請求を一部認容した判決を言い渡したものの、控訴審である東京高等裁判所第2民事部が一審原告の一部認容判決を取り消し、一審原告の請求を棄却する旨の判決を行った。控訴審判決は、憲法第34条が保障する「接見」を「面会」のみに限定し、接見室内での写真撮影は「接見」に当たらないと判断したうえ、情報記録化のための行為について広範な制約を認め、庁舎管理権に基づき施設内の規律と秩序を守るという名目で接見交通権を侵害することを認めるに等しいものであったが、本最高裁決定は、一審原告の請求を棄却する控訴審判決を維持した。

 しかし、「接見」を「面会」のみに限定し、情報記録化のための行為を切り離して考えることは、適切な弁護活動に対する支障となり、接見交通権の保障を空洞化させるものである。特に、本件のように、被告人の健康状態に異常が存在する状況を発見した弁護人が、勾留執行停止の申請、責任能力の主張立証、情状事実の立証等の弁護活動に向けて、接見室内での被告人の容貌姿態の撮影を行うことは、憲法で保障された弁護活動の自由が及ぶ正当な弁護活動そのものというべきであり、かつ、緊急性の高いものである。控訴審判決によれば、このような緊急性の高い場合にも、情報記録化のために、刑訴法の証拠保全手続きを行う必要があることになるが、被告人の健康状態に異常が存在する緊急状況を発見した場合に、このような迂遠な方法で処理することが不適切であることはいうまでもない。
 このように、本件は、憲法第34条が保障する、被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利の中核ともいうべき刑事手続上最も重要な接見交通権の内実が問われ、その解釈が国民の人権に直接かつ重大な影響を及ぼすものであった。ところが、本最高裁決定は、接見交通権や正当な弁護活動の侵害といった重要な論点を含むにもかかわらず、憲法判断を示さなかったばかりか、過去の最高裁判例と相反する判断の有無及び法令の解釈に関する重要な事項を含まないとして、上告受理申立も退けたものであり、極めて不当である。

 当会は、弁護人が被疑者及び被告人との接見の際、弁護活動上必要がある場合に、写真撮影・録画を行うことが、接見交通権として当然に保障されるべき行為であることを表明し、関係各機関に対し、弁護人の接見交通権を侵害することのないよう、強く求めるものである。

2016年(平成28年)8月8日
            第一東京弁護士会 
会長   小 田 修 司

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