• 2016.01.05
  • 声明・決議・意見書

夫婦同姓の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決を受けて民法における差別的規定の改正を求める会長声明

 2015年12月16日,最高裁判所大法廷(寺田逸郎裁判長)は,民法第750条が定める夫婦同姓の強制について,「直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない」として,違憲ではないと判断した。一方,女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法第733条については,立法不作為の違法は認めなかったものの,2008年当時において,100日超過部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとして,憲法第14条第1項及び同第24条第2項に違反するとした。
 まず,民法第750条につき,本判決は,夫婦同氏制の採用は,嫡出子の仕組みなどの婚姻制度や氏のあり方に対する社会の受け止め方などに関する状況判断を含め,国会で論ぜられ判断されるべき事柄にほかならないと判示し,国会の立法裁量の範囲を超えるものと見ざるを得ないような場合にあたるか否かという観点から,違憲ではないとした。しかしながら,裁判官15名の内,5名(3名の女性裁判官は全員)は,その意見において憲法第24条に違反すると判断した。女性の社会進出と社会のグローバル化・インターネット化が進んだ現代社会における氏名の個人識別機能の重要性と氏の変更による個人識別機能に対する支障が近時増大したことを指摘し,女性の社会的経済的な立場の弱さや家庭生活における立場の弱さ,事実上の圧力など様々なものが96%もの女性に夫の氏を選択させているのであって,その意思過程に現実の不平等と力関係が作用している以上,夫婦同氏制が個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえないとし,また,通称使用が可能であるとはいえ,公的な文書には使用できないという欠陥があり,夫婦同氏制によって婚姻をためらう事態まで生じさせている現在,夫婦別姓を全く認めないことに合理性が認められないとも指摘しており,けだし正当である。
 さらに,民法第750条は,国連の女性差別撤廃委員会から,女性差別撤廃条約第16条第1項(b)の規定が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)の規定が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」を侵害するものであると繰り返し指摘されている。
 よって,当会は,国に対し,民法第750条を速やかに改正することを求める。
 次に,民法第733条につき,本判決は,再婚禁止期間をはじめ,婚姻及び家族に関する事項について国会に合理的な範囲で立法裁量が認められていると指摘したうえで,女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法第733条については,立法不作為の違法は認めなかったものの,2008年当時において,100日超過部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとして,憲法第14条第1項及び同第24条第2項に違反するとしており,この点は評価できる。
 さらに,6名の裁判官は,民法第733条2項以外にも100日以内部分の適用を除外すべき場合があることに言及し,2名の裁判官は,父性の推定が重複する場合が極めて例外的であることから民法第733条は全部無効であるとの意見を表明しており,けだし正当である。国連の自由権規約委員会や女性差別撤廃委員会は,我が国に対し,再三にわたり女性に対する再婚禁止期間の制度の撤廃を要請ないし勧告している。
 よって,当会は,国に対し,民法733条につき,速やかに100日以内の部分についても再婚禁止規定を撤廃する旨の改正をすることを求める。

2016年(平成28年)1月5日
            第一東京弁護士会 
会長   岡    正 晶

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