我が国の政府は、1981年5月29日の政府答弁において、従来からの一貫した立場も踏まえて、集団的自衛権について、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないのにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」と定義した上で、「我が国が、国際法上、集団的自衛権を有していることは主権国家である以上当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するための必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」旨の見解を表明し、この政府見解は、その後30年以上にわたって、政権与党の変遷にかかわらず一貫して維持され、国内外に示されてきた。
しかし、政府は、本年5月14日、憲法改正手続を経ずして、上記政府見解を変更し、我が国による集団的自衛権の行使を一部容認する法案(武力攻撃事態法改正法案など)を国会に提出し、さらに政権与党は本年7月16日に衆議院において、本法案を強行採決した。
しかしながら、従来の一貫した政府見解は極めて重いものであり、我が国の憲法規範を構成しているというべきである。それを変更するためには、憲法改正を発議して、国民に提案し、その過半数の賛成を問うべきである(憲法96条)。具体的には、個別的自衛権で足りない理由、本法案により得られる国益の具体的内容、発動要件・行使要件の具体的内容・限界などを、広く国民に、分かりやすくかつ明瞭に説明し、その上で、その過半数の賛成を得ることが必要不可欠である。
その手続を踏もうとしない本法案は、憲法の条項を法律で改変するものとして立憲主義の基本理念に反し、また憲法の改正を国民に直接問わないものとして国民主権の基本原理にも反する。
よって、集団的自衛権の行使を一部容認する本法案の採決・成立に反対する。
2015年(平成27年)7月22日
第一東京弁護士会歴代会長有志(五十音順)
江 藤 洋 一
木津川 迪 洽
城 山 忠 人
神 洋 明
竹 内 洋
田 中 等
丹 羽 健 介
松 家 里 明
村 越 進
山 﨑 源 三
横 溝 髙 至