• 2008.06.04
  • 声明・決議・意見書

ハンセン病問題基本法」の制定を求める会長声明

 ハンセン病患者の絶対隔離政策を違憲と判断した2001(平成13)年5月の熊本地裁判決を受け、国は、絶対隔離政策を撤廃するとともに、同年12月25日、ハンセン病問題対策協議会において、「13の国立ハンセン病療養所入所者が在園を希望する場合には、その意思に反して退所、転園させることなく、終生の在園を保障するとともに、社会の中で生活するのと遜色のない水準を確保するため、入所者の生活環境及び医療の整備を行うよう最大限努める」ことを確認した。

 しかし、2007(平成19)年5月現在、療養所の入所者数は2890名と減少し、平均年齢は78.9歳と高齢化がすすんでいるところ、医療や看護の人員は削減され、療養所の医療機能の低下が指摘されている。また、療養所は、地域から隔絶された場所に設置されているものが多く、将来的には、少数の入所者のみが地域社会から孤立して生活することとなる結果、療養所が少数の入所者にとって再び隔離のための施設となりかねないとの懸念がある。このような状況において、療養所での生活を希望する入所者に対しては、終生在園を権利として保障すること、社会において生活することと遜色のない医療と生活を保障するために、療養所の将来の在り方を見直し、療養所を入所者以外の者が利用可能にしたり、また多目的な施設とすることを可能にするなど、療養所を地域社会に開かれたものにすることなどが必要である。

 また、療養所外で生活することを希望する人々に対しては、社会に復帰することが支援され、かつ、社会内で生活することを終生にわたって援助されることが必要でありることはいうまでもない。

 さらに、2003(平成15)年に発生した、アイレディース宮殿黒川温泉ホテルによる国立療養所菊池恵楓園の入所者の宿泊拒否事件は、感染力がないにもかかわらず、国家が「感染のおそれ」を理由にハンセン病の患者を生涯隔離し続けたという政策によって生み出された偏見・差別に根ざしたものというべきであるが、ハンセン病の元患者に対する差別・偏見を除去するためには、ハンセン病問題に関する正しい知識の普及啓発活動や名誉回復等も必要である。

 以上のとおり、ハンセン病問題を真に解決するためには、療養所における入所者支援、入所者の社会復帰の支援、退所者の支援、ハンセン病問題に関する正しい知識の普及啓発活動などの施策の実現が必要であり、そのために、「差別・隔離政策からの被害回復」を中心に据えた基本法を制定する必要がある。全国ハンセン病療養所入所者協議会、ハンセン病違憲国賠訴訟原告団等を中心として作られた「ハンセン病療養所の将来構想をすすめる会」により、上記の内容を含んだ「ハンセン病問題基本法」の制定を求める請願署名活動が行われており、当会もその署名に賛同しているところである。
 しかし、本年の通常国会の会期半ばを過ぎてなお「ハンセン病問題基本法」は制定されるに至っていない。

 当会は、国に対し、ハンセン病の患者であった人々の高齢化を十分に踏まえて、ハンセン病の患者であった人々の意見を最大限尊重して、ハンセン病問題の早期かつ全面的な解決を実現するために、直ちに「ハンセン病問題基本法」を制定するよう強く要望するものである。

 また、当会もハンセン病であった人々の人権が確実に回復されるための取り組みが不断に必要であることを再認識し、今後とも、関係機関と協同して、ハンセン病問題の全面的解決のために取り組んでいく決意である。

2008(平成20)年6月4日
第 一 東 京 弁 護 士 会
会 長  村 越  進

一覧に戻る
JP|EN