• 2002.07.01
  • 声明・決議・意見書

有事法制法案についての会長声明

 現在国会で審議されているいわゆる有事法制関連3法案(以下「有事法案」という)は、憲法の基本原理とも言うべき、基本的人権の尊重、平和主義、国民主権に大きく関わるものであり、平和国家としてのわが国のあり方を転換することにつながりかねないきわめて重要な法案である。また、当初から、賛否について国民の意見が大きく分かれるであろうことが予想された法案である。

 政府は、こうした法案を国会に提出するに際しては、事前にその必要性や内容を国民に十分に説明し、国民的な議論を尽くしたうえで法案に民意を反映させるという 国民主権に基づく民主的手続きを踏むべきであった。
 しかし、政府は、今回そのような手続きを履践されたとは言い難く、また、国会においても、国民の理解を得るための十分な審議がなされているとは言い難い実情にある。さらに、マスメディアも、国民の知る権利に応えるために法案についての正確かつ十分な情報を提供しているとは、決して言い得ない。
 そのため、世論調査によると、国民の多くは法案の内容を十分に理解しているか否か疑義の残るところ、漠然と「有事に備えて国民を守るための法律は必要であろう」と考えている傾向も伺える。

 しかし、私たちが法律家の団体として有事法案を検討したとき、憲法原理に照らし少なくとも以下の問題点が存在することを指摘せざるをえない。
 首相に、地方自治体や民間機関に対する指示権・代執行権などの強大な権限が付与される一方、国会や国民の意思を反映させる民主的コントロールの手段はきわめて不十分であり、首相の判断や措置の誤りを正すことができないおそれがある。
 首相が、NHKの業務について指示権や代執行権を有することは、国がメディアを統制することを認めるものであり、国民の知る権利や報道の自由に抵触するおそれがある。
 有事において、国民の生命や権利をどのように保護・保障するのかが全く不明である。
 国民は、国などの措置に、「必要な協力をするよう努めるもの」とされているが、国と国民の判断や意見が異なった場合、こうした規定を根拠に国民が国の決定に事実上従わざるを得なくなるとしたら、一人ひとりの国民の思想信条の自由が侵害されるおそれがある。
 第二次世界大戦において、国の内外で多くの犠牲者を出した重い体験を踏まえ、二度と戦争の惨禍を繰り返さないことを誓った私たちは、なによりも憲法がうたう平和主義を尊ぶものである。

 わが国の平和と安全そして国民の生命と財産を守るために、21世紀初めの今、何が真に求められているのかということについて、広く深い国民的な議論を展開しなければならない。
 今回の有事法案は、透明性のある議論と民主的な手続きが尽くされておらず、内容においても憲法上・人権上の疑義を払拭しえないものであるから廃案を求めざるを得ない。
 以上声明する。

平成14(2002)年7月1日
第一東京弁護士会
会 長  山 本 孝 宏

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