• 2023.06.26
  • 声明・決議・意見書

オンライン接見に関する会長声明

 法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会では、刑事手続のIT化の議論を進めているところであり、同部会では、被疑者・被告人とのビデオリンク方式による接見を刑事訴訟法39条1項の接見として位置づけることを検討している。東京においては、すでに平成20年から検察庁及び法テラスをアクセスポイントとして、拘置所との間でのテレビ電話による外部交通を実施してきたところであるが、IT技術を利用した接見の拡大が行われることは、被疑者・被告人の人権保障の拡充に寄与するものであり、早急に議論を尽くした上で、広く本格的に導入されるべきものと考える。
 いうまでもなく、身体の拘束を受けている被疑者・被告人にとって、身体拘束の当初から弁護人等の援助を受けることは重要な権利である。憲法34条前段は、弁護人の援助を受ける権利を定め、これをうけて刑事訴訟法39条1項は、弁護人が被疑者・被告人と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めているところである。
 東京においては、その管轄区域には島嶼部や山間部も含まれるうえ、接見を担う弁護士の事務所が都内に分散しており、事務所から遠方の施設での接見となることも多く、東京拘置所は都内の東側に位置するため、事務所からの移動に1時間以上を要する事務所も少なくない。また、東京では、東京高等裁判所管内の控訴審に加えて最高裁判所の上告審の国選事件を全て担っているところ、被告人が他の道府県に勾留されていることもあり、現代のIT技術を利用したオンライン接見や電子データ化された書類の授受を行うという手段を用意しておくことは、被疑者・被告人の権利を擁護する上で有効な手段であると言える。
 その意味で、オンライン接見も刑事訴訟法39条1項の接見交通権の行使に含まれると解することは可能であり、オンライン接見は、法律上の制度として国家予算を通じて運営されることが切に望まれるところである。
 もっとも、オンライン接見が導入されることにより、接見はオンラインで行えばよいと安易に考えることは厳に慎まなければならない。この点は、制度を整備する国家においても、制度を利用する我々弁護士においても肝に銘じなければならない。あくまでも接見の本質は対面によるものであり、オンライン接見はその補充として機能することが期待されるものである。
 法制審議会の上記部会においては、主に捜査機関側から、オンライン接見については実施設備に伴う人的・経済的コストの負担や、なりすまし等の危険がある等の問題が指摘されているとのことである。
 しかしながら、海外においてはオンライン接見が既に導入されており、そうでなくても、古くから電話による弁護人との交通権を整備している。オンライン接見は、被疑者・被告人の弁護人選任権を実質化する憲法上の要請に基づくものである。刑事手続のIT化の議論においては、令状手続、取調、弁解録取、勾留質問等をオンラインで行うことも検討されており、ひとり接見のみが人的・経済的な理由によりオンライン化が否定されるのはその根拠が乏しいと言わざるを得ない。
 以上のとおり、刑事手続のIT化は何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点で進められるべきであり、当会としても、上記部会において十分に具体的な議論を尽くした上で、対面での接見の機会や方法をより充実させることを大前提として、オンライン接見が早期に本格的に実現することを要望する次第である。

2023年(令和5年)6月26日
第一東京弁護士会
会長 菰田 優

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