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第六十七回渋谷法律相談センターコラム「当事者尋問で嘘をついたら?」

民事裁判では、争点が絞られてくると当事者尋問を行います。この当事者尋問において、当事者が嘘を述べないとの誓約した上で虚偽の事実を述べると過料の制裁に処せられます(民事訴訟法209条1項)。なお、当事者尋問に際し当事者に宣誓をさせるかどうかは裁判所の裁量に委ねられていますが、ほとんどの場合、当事者に宣誓をさせているようです。

ただ、実際のところ、弁護士(おそらく裁判官も)は、「当事者はどうせ自分に不利なことは言わない、本当のことなど言わない」という認識があり、それゆえこれをいちいち処罰していられないということなのか、虚偽陳述をした当事者に過料の制裁が科されたなどという事例は聞いたことがありませんでした。民事訴訟法209条は死文化していると言われているのです。

ところが、最近、とても興味深い決定が出されました。当事者尋問で嘘をついた当事者に過料の制裁を科したという事例です(決定の事件番号は不明。基本事件:名古屋地裁令和31020日判決。判例タイムズ1494125頁)。

基本事件は、交通事故に起因した損害賠償請求事件です。原告が被告に損害賠償請求し、被告も反訴として、原告に損害賠償をしたという事案です。この際、被告(反訴原告)は、自分は大学の非常勤講師であり、事故によって休業せざるを得なくなったとして、休業損害の賠償も請求し、当事者尋問においても被告は、「A大学で学生相手に講義をしている」「1ヶ月に3回程度講義を行っている」などと陳述していました。ところが、この尋問のあと、被告には非常勤講師としての勤務実態がないことが判明したことから。裁判所は、「重要な争点に関する故意の虚偽陳述は極めて不誠実かつ悪質なもの」として、被告に民事訴訟法209条1項に基づき10万円の過料を科しました。

判決文を読むと、どうやら被告は、反訴提起時は自分は家事従事者だと主張していたようですが、その数ヶ月後に、大学の非常勤講師だと主張をし、それに対し原告(反訴被告)が就業先や収入などの開示を求めたものの、被告はすぐには回答せず、さらに数ヶ月経ってからようやくA大学だと回答をした、という経緯だったようです。また、当事者尋問の後に裁判官から原告に、被告の勤務実態を問うためにA大学への調査嘱託の申立てを促したようで、これもまたあまり聞いたことのない訴訟進行です。この調査嘱託の結果、A大学の勤務実態がないことがはっきりしました。

判決理由に以上のような訴訟経過が詳細に書かれています。これをみると、裁判官は、被告の訴訟遂行態度に相当立腹していたのだろうなと、行間から感じられます。ちなみに、この判決では、原告の訴え提起に関する費用以外、訴訟費用は全額被告負担とする判断もしています。これも認容額に応じて費用負担させるのが通常であることからすると、異例であり、ここからも裁判官の静かな怒りを感じます。

この事例は特殊かもしれませんが、いずれにしても、訴訟遂行は誠実に行うことが大切ですね。