知人にお金を貸したのに、相手が返してくれない、というとき、何ができるでしょうか。
「(自分で)支払ってくれと要求する。」
通常はここから始めるでしょう。
それで払ってもらえるのが一番ハッピーです。
ただ、相手が払ってくれない場合には、もっと、何らかの強制力やプレッシャーが必要です。
ただの手紙や電話だけではなく、内容証明郵便で請求をすると、証拠にもなり、プレッシャーとしても強まります。
「弁護士に依頼して、支払うよう要求する。」
弁護士名で請求することで、支払わないと法的措置を執られそうだ、というプレッシャーをより強く与えることができそうです。
弁護士に相談しているということは、弁護士が様々な債権回収方法を検討しているということでもあります。
この段階で、払ってくれたり、分割払いの合意ができたり、ということもありそうです。
ただ、それでも払わない人はやはりいます。
「仮差押えをする」
次に述べる裁判をする、という場合、裁判で判決が出るのを待っていては、相手方が財産を隠したり散逸したりするおそれがある場合もあります。
そういうときは、裁判をするよりも前に(或いは、裁判の途中で)、早々に、相手方の財産を仮差押えしておくと有利です。
なお、仮差押えは、あくまでも仮のものですので、実際に債権回収をするには、裁判で勝訴して強制執行を別途行う必要があります。なお、仮差押えをするには、一定の保証金を法務局に供託する必要があります。
仮差押えを外してもらうために、相手方の方から和解を希望してくることもあり、そういった場合は早期解決にもつながります。
仮差押えをするならば、財産を隠匿される前の、早い段階の方が望ましいです。仮差押えや強制執行をできそうな財産として、どのようなものがあるか、というのも、早い段階で検討しておくことが必要です。
「裁判をする。」
裁判をしていく中で、和解がまとまって、払ってもらえるというケースもあるでしょう。
和解しない場合は、判決で勝敗を決することになります。勝訴判決が出たら、諦めて払ってくれる場合もあるでしょう。
ただ、勝訴判決が出ても、なお払おうとしない人はいます。
「強制執行をする。」
勝訴判決をとってもなお払われない場合は、強制執行を検討します。
判決が確定したり、或いは、確定前でも仮執行宣言付の勝訴判決をもらっていれば、強制執行ができます。
また、執行認諾条項付きの公正証書があれば、そもそも裁判をせずとも、いきなり強制執行ができますから有利です。
ただし、強制執行をするには、その対象となる財産が分かっていて、特定できることが必要です(先ほど述べた仮差押えの場合と同様です)。
たとえば、銀行口座であれば、どこの銀行のどこの支店、までは分かっていなければなりません(口座番号までは必要ありません)。
様々な財産が強制執行の対象になりえますが、よくある例としては、不動産、預貯金、役員報酬・給料、売掛金などでしょうか。
なお、執行法の改正によって、勝訴判決を得た後には、相手方の預貯金の情報を取得しやすくなりました。
「破産されてしまう」
債権回収をしようとしているときに、相手方が破産してしまうことがあります。
破産されると、破産者の財産を現金に変えて、全ての債権者で平等に配当を受けるということになります。但し、債権にも優先順位があって、税金や労働債権などは優先順位が高いので、それらが多額ですと、一般の債権には配当が全くまわってこない、などということもありえます。
そもそも破産者にはほとんど財産がないような場合だと、配当もなく破産手続は終了し、相手方は免責を受けて、こちらの債権は全く回収できない、ということも多々あります。
時間と労力とコストをかけて債権回収の努力を続けている最中に、相手が破産してしまうと、ショックが大きいですね。
そう考えると、破産するほど追い詰めるよりは、ある程度、支払可能な分割払いを認めてあげて、月々の収入から返済してもらった方が、回収額としては高くなるというような場合もありそうです。時間を遡って、交渉時にどこまで譲歩するかという検討をする際によくよく考えておくべきです。
「破産させる」
さきほどは、破産されると回収ができなくなる、という話をしましたが、逆に、破産を債権回収に利用する、という使い方もあります。
相手の財産がどこにあるか分からない、というケースですと、強制執行を行うことが困難です。そのような場合で、かつ、相手方が破産状態(支払不能等)である場合には、債権者であるこちらから破産を申し立てるというやり方があります。
そうすると、裁判所が、第三者の弁護士を破産管財人に選任し、破産管財人が破産者の財産状況等を調査してくれます。破産管財人は、財産を発見すると、それを現金に変えて債権者に対し配当をすることが期待できます。
ただし、この場合の配当は申し立てた債権者だけが受けることができるわけではなく、他の債権者にも平等に配当がなされることや、また、税金や労働債権の方が一般の債権よりも優先順位が高いことは、通常の破産の場合と同様です。
また、債権者から破産を申し立てる際には、それなりの金額の予納金を裁判所に納める必要がありますので(これは、破産管財人が財産を見つけて換価すれば、優先的に返してはもらえますが、そうでなければ返ってきません)、ある程度多額の資産を隠されている見通しがあるような場合でなければ、債権者からの破産を申し立てて回収を図る、というやり方はなかなか使えません。
ここまで考えていくと、お金を返してもらえない場合にそれを回収するのは、場合によっては結構大変になることがある、とお分かり頂けるかと思います。
もし、お金を貸すときに、公正証書を作ったり、不動産等を担保にとったり、連帯保証人を立ててもらっておけば、そこまで苦労せずに債権回収ができたのに、という思う場合もありそうです。
また、弁護士が債権回収を相談された場合は、まずは、その請求権が成立するか(立証できるか)を検討し、次に、回収可能性(相手方に支払能力があるか、強制執行可能な財産が判明しているか)などを検討します。
その上で、回収できないリスクを踏まえて、債権回収にどのくらいのコストをかけれるかも考えて、相談者とともに、何が一番良い手段なのかを検討します。
相手方との交渉で、どのような支払条件(一括なのか、分割なのか、支払能力にあわせて一部免除を検討するか)とするかを考える際にも、請求権の立証の難易、回収可能性を踏まえて、判断することになります。
債権回収、と一口に言っても、それぞれのケースでとりうる手段は様々です。
そのようなご相談も、渋谷法律相談センターではお受けしております。