• 2021.02.16
  • 声明・決議・意見書

性差別撤廃と男女共同参画の推進を求める会長声明

 日本では、日本国憲法第14条で性別による差別を禁じられているほか、男女共同参画社会基本法・女性活躍推進法も定められ、男女共同参画の実現に関する取組が行われてきた。また、昨今は、世界的にジェンダー平等の実現が持続可能な開発目標(SDGs)の一つとして掲げられており、あらゆる差別を撤廃しようという活動が行われている情勢にある。内閣府の第5次男女共同参画基本計画に指導的地位への女性の参画の推進について定められていることにも見られるとおり、日本社会においても、あらゆるレベルで男女共同参画を実現して多様性ある社会を目指そうとしているところである。
 
 しかし、誠に遺憾なことに、世界経済フォーラムにより公表された2019 年の日本の男女格差は153カ国中121位、政治分野は144位のワースト10に位置づけられ、この数年間をみても女性の社会進出は必ずしも十分とは言えない。

 かような状況下で、報道によれば日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会(2021年2月3日開催)において東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長(当時)森喜朗氏が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。」「女性の理事を増やす場合は、発言の時間も規制しないとなかなか終わらないので困る。」「私どもの組織委にも、女性は何人いますか。女性は7人くらいおられるが、みんなわきまえておられる。」という発言を行ったとされ、これを契機とし、いみじくも日本社会におけるジェンダー平等に対する意識の遅れ(複数の問題点)が指摘されている。

 女性が参画する等して多様な構成員にて構成される会議体は、異なる意見をぶつけあう結果、おのずと議論が活発になり長時間に及ぶこともあるかもしれない。しかし、多様な構成員の積極的な発言により議論が活発化すること自体は、民主主義の発露として、またあらゆる角度から議題を検討・検証するという観点から、望ましい会議のあり方である。むしろ、議論を尽くさず、事なかれ主義にて会議が進行し、他の構成員や事務局に忖度して意見を述べない方がよほど問題がある。しかるに、公的組織のトップの地位にある人物が「わきまえ」るという言葉を用いて意見を控えることを美化することは、女性が会議体において意見を述べることに対し萎縮効果を与えるものである。

 また、森氏は翌日の会見の場等で「(第三者から)女性理事の発言時間を規制しないと会議が長引いて困ると聞いた。」と述べ、記者会見における応答でも、前記発言時に臨時評議員会の参加者から問題点の指摘はなされなかったと認められること等から、森氏の前記発言に現れた思考は森氏の属人的なものではなく、日本社会に残存しているものと言わざるを得ない。公的な組織のトップによってこのような発言がなされたことは、現在、自社の持続的成長及び持続的社会の実現を期して、コーポレート・ガバナンスに多様性を取り入れるべく努力を重ねている多くの企業の取組の方向性の正反対を行くものであり、その足枷にすらなりかねない。

 なお、森氏が前記発言等に対する世論を受け最終的に辞任という選択をした点の是非はさておき、不適任であるとの指摘を受けて辞任する組織体のトップが、組織において定められた規律に従うことなく独断で後任を指名しようとした点にも公益財団法人のコンプライアンス及びガバナンス上大きな問題があることを指摘しておく。

 今回の森氏の発言は、日本における女性差別及び男女格差の存在、並びにそれらの原因が事象として水面上に表れたものである。その中で、国際的に森氏の前記発言が批判を浴び、日本社会全体に対して疑問が投げかけられている。日本に対する国際的な評価及び信用を維持・向上するためにも、性差別の撤廃及び男女格差の解消は重要な課題であることを再認識し、改善に取り組むことが必須である。

 当会は、日本国憲法の精神、そして男女共同参画社会基本法、女性活躍推進法等に則り、ジェンダーをはじめとするあらゆる差別の撤廃及び男女共同参画社会の実現に向け、より一層の努力を重ねていく所存である。

2021年(令和3年)2月16日
            第一東京弁護士会 
会長   寺 前   隆

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