• 2021.01.26
  • 声明・決議・意見書

感染症法等改正案の慎重審議を求める会長声明

 政府は、去る1月22日、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)及び新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)等の改正案を、閣議決定し、提示した。新型コロナウイルス感染症に対しては、検査・医療体制の確保・拡充や経済対策等について包括的・総合的な対策が求められるところであるが、これらの対策は、すべての人の生命及び健康に対する権利、身体や営業の自由、適正手続の保障といった憲法上の権利に十分な配慮をして検討されるべきものである。このような憲法や人権保障の観点から、同改正案には看過しがたい問題点があり、慎重な審議を求めるものである。

 とりわけ、感染症患者に対する入院措置(感染症法改正案26条2項、19条3項等、46条)について、刑事罰(同72条1号。懲役1年以下又は罰金100万円以下。)を新設・導入することについては、医学会・医療関係者からも危惧が示されている(1月14日日本医学会連合、日本公衆衛生学会、日本疫学学会各声明)。
 法律を制定するには、その条文が必要であり有効であることを裏付ける事実(立法事実)の存在が必要であり、刑事罰は、刑罰をもって保護しようとする法益と侵害行為とが均衡したものであることが必要である(罪刑の均衡、比例原則)。新型インフルエンザに対する恐怖感が社会にあることを踏まえつつも、これまで感染症法等が入院拒否者に対する罰則を定めてこなかった理由や歴史的な教訓に思いをはせる必要がある。入院に応じない者や入院先から逃げた者が相当数おり、かつ、そのことが感染拡大を招いているという事実が必ずしも明確ではないのに、刑務所に収容すること(懲役刑)も含めて罰則を設けるというのは過重な刑罰であり、立法事実も無く、比例原則にも反するものである。

 また、特措法改正案は、「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置」を新設して(特措法改正案2条3号)、都道府県知事に措置命令の権限を付与するものであるが、発動要件は「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるとき」で(同31条の4第1項)、措置内容も政令に委ねつつ(31条の6第3項)、措置の履行確保手段として、都道府県職員に事業場に立ち入り業務の状況や帳簿、書類等の物件の検査等をする権限を与え(同72条1項)、その拒否者に対して20万円以下の過料(行政罰)で臨むものである(同81条)。
 このように不明確な発動要件のもとに、行政罰を伴う立入検査等の重大な権利侵害措置を新設することには、極めて慎重であるべきである。どのような措置が感染防止に有効なのか明確になっていない状況で、行政罰を伴う立入検査までできるとすることは、明らかに手段として重すぎる。

 現下の感染拡大の主たる要因は、無症状の感染者あるいは若年層を中心とする軽度感染者の行動に起因する意図しない拡散のためであるから、現在、何よりも国に期待されていることは、すみやかな検査体制の充実、整備であり、また、感染者のための十分な病床を確保し、必要な医療体制を提供することである。決して、罰則の制定や知事の権限強化が求められているわけではないと思われる。
 
 以上のとおり、同改正案には重大な問題点があるので、慎重な審議を求めるものである。

2021年(令和3年)1月26日
            第一東京弁護士会 
会長   寺 前   隆

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