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第二十一回渋谷法律相談センターコラム「失踪による死亡と財産の管理について」

とある女性からの相談です。夫が冬山登山にひとりで行ったきり帰って来ないまま数か月が経過しており、警察にも届けたし山岳救助隊も出動したがもはや生存の可能性はほぼ諦めているとのこと。そんな最中、夫の親が死亡し、相続が発生したが、どのように処理をすればよいのかというものでした。

仮に夫の死亡が確定していれば、女性は夫の他の家族と合意の上で夫の地位を承継して夫の親の相続に対応することが可能でした。ただ、大変にお気の毒ながら、女性の夫が生存している可能性はほぼ皆無と言わざるを得ないのが現実であっても、遺体も発見されていない状況では、法律上は死亡が確定したわけではありません。

そのため、夫は現在もどこかで生存しているものとして取り扱わねばならず、いくら妻であっても相続に関して特段の委任も受けていない以上は、相続手続を代行するというわけにもいきません。

民法上、行方が知れない方については、失踪宣告という法律上死亡を認定する制度があります。失踪は普通失踪と特別失踪に分けられ、前者は生死不明状態が7年継続することで成立し、後者は戦争に巻き込まれたり死亡の危険が非常に高い危難に遭遇したりした場合に、危難が去った後1年経過することで成立します。

今回の場合も、例えば登山中に大きな雪崩が起きたとか、火山が噴火したなどの事態があれば特別失踪が認められる可能性もありましたが、滑落というだけでは認められないことから、失踪宣告制度の利用はあきらめざるを得ない状況でした。

その場合、現実的に現れる可能性のない夫のために夫の親の相続手続を待たなければならないのかといえば、そうではありません。法律上は生存しているけれども連絡がつかない相手については、不在者財産管理人制度が用意されています。

不在者財産管理人は、その名のとおり、不在者の財産を不在者に代わって管理をしてもらう者を指し、不在者の利害関係人等の申立てによって裁判所が選任します。

本件についても利害関係人としての女性が夫の財産について不在者財産管理人選任を申し立て、結果として選任された管理人が、夫の親の相続を適切に処理しました。

不在者財産管理人は、本来不在者(本件では夫)の利益のみを考えて行動すべきものであるため、たとえ妻であっても夫の財産を流出させる行為は許容されないのが原則ですが、本件では、ずっと専業主婦であった妻である女性は、夫の預貯金に入金される年金を原資に生活をしていたという事情がありました。そのため、この原則を貫いてしまうと、妻は生活原資を失ってしまうことになるため、申立ての段階で裁判所と協議をし、生活資金管理口座については妻から管理人に対して必要に応じて状況報告をすることを前提に管理させることとし、その他の財産は管理人が管理するということで落ち着きどころを見出しました。

結果として、妻の生活は守られ、また不在者である夫に必要な法的手続も適切に遂行することができ、関係者一同丸く収まることができました。

不在者財産管理人、とはなかなか聞き慣れない言葉かもしれませんが、長年没交渉になっている方と連絡を取る必要がある場合、この制度があることを頭のどこかに置いておかれることをお勧めします。