• 2020.07.17
  • 声明・決議・意見書

「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明

 法務大臣の私的懇談会である出入国管理政策懇談会の下に設置された収容・送還に関する専門部会
(以下「本専門部会」という。)は、2020年6月19日、「送還忌避・長期収容問題の解決に向
けた提言」(以下「本提言」という。)を発表し、7月14日、本提言が法務大臣に提出された。
 本専門部会は、2019年6月に大村入国管理センターで起きた長期被収容者の餓死事件と、これ
に対する抗議活動も契機として、収容の長期化や、処遇上の問題等を解決することを企図して設置さ
れた。本提言では、出入国在留管理行政において、被収容者の健康問題をはじめとした人権上の多様な
問題が発生している現状があり、本専門部会で長期収容や収容中の処遇にまつわる問題の解決を企図
した議論が重ねられたことがうかがえる。
 しかしながら、この問題解決のための措置として掲げる「送還忌避罪等創設を検討する」等をはじ
めとする以下の3点の提言については反対を表明する。

1 送還忌避罪等の創設について
  本提言の中で、①退去強制手続きにおける一層適切な在留特別許可の活用や、在留特別許可の考慮
 要素や基準の一層の明確化、②退去強制令書の発付後に在留特別許可相当の新事情が生じた場合等に
 は従前の処分を変更すること、③出国後に早期の上陸・在留を可能とする仕組みを制度化すること等
 の送還促進措置を検討するという方向性については一定の評価ができるのであり、その取り組みに着
 手すべきものと考える。
  しかしながら、本提言において、被退去強制者に本邦からの退去を命ずる制度及び命令違反に対す
 る罰則(送還忌避罪)の創設を検討すべきとする点は、人権侵害の恐れがあることから容認できな
 い。
  そもそも、退去強制令書の発付を受けた者の中には、帰国すると身に危険が及んだり、日本に家族
 がいたりする等、長期間収容されたとしても帰国できない事情を抱える者がいる。また、退去強制令
 書の発付後に、難民と認定された者や人道上の理由で在留が特別に許可された者が相当数存在する
 (例えば、2010年から2018年までの間に難民認定された者の約20%、人道配慮を理由に在
 留を許可された者の約41%が、退去強制令書発付後に認定又は許可を受けているのである)。難民
 該当性や在留特別許可の許否について司法による判断もなされていない段階で、刑事罰をもって帰国
 を強制することは、これらの者の裁判を受ける権利を侵害するおそれがあり、また、このような事情
 を抱える被退去強制者に対して刑罰を科しても、収容の場所が入管から刑事収容施設に移るだけで、
 送還忌避対策としての実効性は期待できない。
  さらに、被退去強制者の家族や支援者ら、ひいては弁護士等の専門家が上記送還忌避罪の共犯とさ
 れる可能性が払拭できない。
  刑罰を科すことは最終的な手段であり、刑法の謙抑性の観点からも、本項冒頭で述べたような、よ
 り制限的でない送還促進措置を先に実施してその効果を検証したうえでなければ、安易に罰則の要否
 を検討すべきではない。

2 送還停止効の例外の導入について
  本提言では、出入国管理及び難民認定法が規定する、難民申請中の者の送還を停止する効力につい
 て、本提言は、再度の難民認定申請者については、「例外を設けることを検討すべき」とするが、こ
 のことは、迫害を受けるおそれのある領域に送還してはならないとする難民条約33条1項等との関
 係で疑義がある。
  そもそも、現在行われている初回の難民認定申請の手続が問題なく適正に実施されていると評価す
 ることはできない。本提言でも、送還停止効の例外規定創設と同時に「平成26年12月第6次出入
 国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会における「難民認定制度の見直しの方向性に関す
 る検討結果(報告)」(以下『平成26年報告』という-本会長声明)の提言を踏まえた施策を併せ
 て実施する」と提言しているのであり、専門部会が、平成26年報告による提言が、この5年間には
 十分に実施されていなかったことを認めているのである。
  とすれば、まず、平成26年報告による提言にもとづき、難民認定申請の手続きの適正化こそを実
 施すべきであり、それなくして、再度の難民認定申請者等を、はじめから難民制度の濫用者等と想定
 して、送還停止効の例外の導入を検討するという提言は適当ではないと言うべきである。

3 収容期限の上限を定めない制度の維持および仮放免逃亡罪の創設について
  本提言は、「我が国で一律の収容期間の上限を定めることについては、被退去強制者の速やかな送
 還を旨とする我が国の退去強制制度の下では問題が大きい」として、収容期間の上限を定めるべきと
 の意見を採用しない。しかし、収容期間に上限を設けることこそが長期収容解消のための最も直接的
 かつ効果的な方策であり、かつ、「期限を定めない収容は国際法上恣意的拘禁と評価される」との非
 難を解消するものである。
  また、本提言は、仮放免された者の逃亡等の行為に対する罰則(仮放免逃亡罪)の創設も検討する
 とするが、同罰則も、送還忌避罪と同様に刑法の謙抑性の観点から問題があるといわざるを得ないの
 であり、仮放免逃亡罪の創設の検討も否定されるべきである。

2020年(令和2年)7月17日
            第一東京弁護士会 
会長   寺 前   隆

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