• 2020.02.26
  • 声明・決議・意見書

法律事務所の捜索に抗議する会長声明

 2020年(令和2年)1月29日、東京地方検察庁の検察官ら(以下「本件検察官ら」という)が、刑事被疑事件について、関連事件を担当した弁護士ら(以下「本件弁護士ら」という)の法律事務所の捜索を行った。
 本件検察官らは、本件弁護士らが、法律事務所の入口で、捜索差押令状に刑事訴訟法第105条に基づく押収拒絶権の対象物が記載されていることを確認した上で、同条に基づき押収拒絶権を行使し、且つ、事務所内の捜索についても拒絶したにもかかわらず、無断で法律事務所の裏口から同法律事務所に立ち入った。そして、本件検察官らは、弁護士の執務スペースなどにおいて、本件弁護士らが、当該場所には弁護士が職務上預かっている物や職務上作成する物が保管されており、明らかに押収拒絶権の対象となる物ばかりであることを告げ、執務スペースなどの捜索を拒否したにもかかわらず、当該場所に対する捜索を継続し、ビデオ撮影するなどした。さらに、本件検察官らは、上記刑事被疑事件の被疑者が保釈条件で許された貸与パソコンを利用するためなどに使用し自己の所有する物品を置いていた会議室について、本件弁護士らが、同室内に所在する物は全て依頼者から委任を受けて預かった秘密性のある物であることを説明し、同室全体について押収拒絶権を行使し、同室の捜索自体を拒絶したにもかかわらず、同室入口の鍵を破壊して同室に立ち入り、鍵のかかったキャビネットを強制的に開錠、開扉し、押収拒絶権対象物が多数存在する会議室内の捜索を強行した。
 刑事訴訟法第105条は、弁護士を含む所定の地位にある者について、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持するもので他人の秘密に関するものについて、押収拒絶権を認めている。同条の趣旨は、他人の秘密に関与することの多い業務についている者に対して、秘密の保持を認め、業務者に対する社会的信頼を守ろうとする趣旨である。
 押収拒絶権者によって押収拒絶権が行使されたにもかかわらず、捜査機関が押収拒絶権対象物の存在場所を捜索することを許すと、押収拒絶権対象物であるか否かを確認するという名目で、捜査機関が押収拒絶権対象物の内容を目にすることが事実上可能となる。このような事態は、刑事訴訟法第105条の趣旨である他人の秘密に関与することの多い業務者に対する社会的信頼を損なうことになり、刑事訴訟法第105条の趣旨を没却する。押収拒絶権が行使された場合には、刑事訴訟法第105条の趣旨に照らし、押収拒絶権対象物の存在場所を捜索することは許されない。
 本件検察官らによる前記捜索は、押収拒絶権対象物の存在場所を捜査機関の目にさらし、ビデオ撮影により当該場所の記録をするなど、弁護士に対する社会的信頼を損なうものであり、刑事訴訟法第105条の法の趣旨を没却する違法な捜索である。違法な捜査権力の行使によって、対立当事者である被告人、弁護人の秘密を侵害する本件検察官らの行為は、刑事弁護活動を大きく委縮させるにとどまらず、刑事司法手続の公正さに重大な疑問を生じさせ、さらには弁護士に対する社会的信頼を損なう。
 当会は、刑事訴訟法第105条に反する東京地方検察庁の検察官らが行った前記捜索に対して強く抗議するとともに、同様の行為を二度と行うことがないように求める。

2020年(令和2年)2月26日
            第一東京弁護士会 
会長   若 林 茂 雄

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