• 2018.07.25
  • 声明・決議・意見書

オウム真理教事件に関連する死刑執行に関する会長声明

 平成30年7月6日、一連のオウム真理教事件に関連する松本智津夫(麻原彰晃)元代表を含む7名の元同教団幹部に対する死刑が執行された。
 オウム真理教は、平成元年11月4日に横浜弁護士会(当時)所属の坂本堤弁護士とその妻及び当時1歳の幼子を無残に殺害し、平成6年6月27日には松本サリン事件を、平成7年3月20日には地下鉄サリン事件を起こし、平和に暮らしてきた多数の無辜の生命を奪うなど、凶悪かつ民主主義の根幹を脅かす多くの犯罪を繰り返していたものである。
 当会は、あらためて、オウム真理教が引き起こしたこれら犯罪の多数の被害者・ご遺族の方々に対してお見舞いと哀悼の意を捧げ述べるとともに、坂本弁護士事件のような悲劇が二度と繰り返されることがないよう弁護士業務及び司法に対する暴力による妨害行為を決して許さず、凶悪な犯罪行為の途絶をめざして断固として戦うことを誓う。
 当会は、国に対して、犯罪の予防システムの確立と犯罪被害者・遺族に対する十分な支援を求めるとともに、死刑及びその執行について、現在、国民の間にも、当会会員の間にも、賛否を含めて様々な意見がある現実を踏まえ、以下のとおり求めるものである。
 第一に、誤判による処罰が許されないことは当然であり、とくに、死刑事件では絶対にあってはならない。この点において、今般の死刑執行対象者には、弁護人による再審の請求手続中であった者が含まれており、その執行が適正であったかどうかは慎重に検証されなければならない。
 また国に対し、一定の重大事件における弁護側の証拠収集のための特別な費用補助や、再審請求における費用補助、死刑を言い渡された被告人の上訴権の放棄・取下げに対する弁護人の関与等の制度化など、えん罪防止のため、審理手続きから判決の執行に至るまで、弁護人が十分かつ確実にその活動を行うのに必要な法整備を求める。
 第二に、海外情勢を含む死刑制度の在り方や、死刑確定者に対する処遇等については、教育や報道等を通じて重要かつ正確な情報が国民に提供されるべきである。
 たとえば我が国においては、死刑執行当日に死刑確定者に対して突然それが告げられるため、再審申立を準備中であったとしても、そのことを法務省に上申し、あるいは再審の準備をしている弁護士に連絡をとる暇もないが、死刑確定者及びその家族に対して執行日時に関する妥当な事前通知を与えるなどの制度が検討されるべきである。また死刑確定者は、独房に収容され、その心情の安定という理由のもとに通信や面会の自由への制限が課されており、再審弁護人の接見にも未だ刑事施設の職員が立会う例があるが、その必要性をあらためて見直した上、再審弁護人との厳格な秘密交通権、死刑確定者の精神状態を把握するための独立した仕組の構築などが検討されるべきである。
 なお、死刑確定者が心身喪失状態にある場合には死刑執行が停止され(刑事訴訟法479条1項)、その回復を待って執行する(同3項)こととなっているが、心神喪失状態についての判断が適正になされているか不明である。この点につき、今般の死刑執行においては、心神喪失の状態にあることが疑われる者が含まれており、その執行が適正であったかを検証する必要があるとともに、今後は法務省から独立した機関により心神喪失の状態にあるか否かを判定する機関を創設するなど、死刑確定者に対してもなお適正手続きが保障されるよう法整備が必要である。
 国は、国民に対して、このような情報を広く公開・周知し、今後の死刑の存廃を含め、その在り方について全社会的議論を行うべきである。

2018年(平成30年)7月25日
            第一東京弁護士会 
会長   若 林 茂 雄

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