• 2016.05.31
  • 声明・決議・意見書

本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律の成立にあたっての声明

 本年5月24日、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」(以下「本法」という)が成立した。
 在日コリアンなどに対するいわゆるヘイトスピーチは、個人の尊厳を著しく傷つけ、差別や偏見を助長するものであり、その解消に向けた取り組みが立法化されたことは差別撤廃に向けた第一歩として評価しうるものである。
 しかし、本法第2条は、「不当な差別的言動」(所謂「ヘイトスピーチ」)を「適法に居住」する「本邦外の」出身者に対するものに限定している(本法第2条)。このことは、在留資格を有しない者へのヘイトスピーチは許されるかのような誤った反対解釈を生じさせる危険がある。
 日本において人種差別・排外主義を扇動するヘイトスピーチの対象とされ、その解消が喫緊の課題となっているのは、「適法に居住」する者に限られない。いわゆる「ヘイトスピーチ」が社会的関心を高める契機となった事件の一つとして、2009年に、出入国管理及び難民認定法に基づく在留特別許可を求める少女の通う学校があった埼玉県蕨市でなされた「不法滞在者」をテーマとするデモ行進があった。また,現在,難民の排斥を求めるデモ行進も日本で行われ始めているが,祖国を追われ日本に庇護を求める難民申請者の中には,在留資格を持たない者も多くいる。国連の人種差別撤廃委員会も一般的勧告第30第7パラグラフにおいて、「在留資格を問わず、人種差別に対する法律上の保障が市民でない者に及ぶことを確保する」べき旨を日本を含む締約国に勧告していることに鑑みれば、この問題点を早期に是正すべきである。
 この点、本法成立にあたっての衆参法務委員会の附帯決議において、「『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤り」であり、本法の趣旨、憲法及びあらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約の精神に鑑み「適切に対処すること」が確認されたが、より明確な法文上の改正が速やかになされるべきである。
 次に,本法は、「本邦外」の出身者に対する言動を対象としているが、人種差別撤廃条約は,このような者に限らず、人種,皮膚の色,世系又は民族的若しくは種族的出身を理由とする差別的言動を、撤廃の対象としており、国や地方公共団体においては、この意味で対象を拡大することを検討すべきである。また、同条約において締約国が解消に向けて取り組むべき差別とは、言論による差別に限らず、「政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野」(同条約1条1項)におけるものとされており、国や地方公共団体においては、このような差別の実態を正しく把握し、法令の整備を含めた必要な施策を実施することが望まれる。
 当会は、国や地方公共団体に対して、あらゆるヘイトスピーチを根絶するために本法に基づく施策を積極的に講じることを求めるとともに、憲法及び人種差別撤廃条約等国際人権諸条約の理念に即し、法令の整備を含む人種差別全般の解消に向けた取組みを推進していくことを求めるものである。

2016年(平成28年)5月31日
            第一東京弁護士会 
会長   小 田 修 司

一覧に戻る
menu