• 2015.07.31
  • 声明・決議・意見書

18歳・19歳の年長少年に対する刑事処遇に関する会長声明

1 今般成立した改正公職選挙法附則第11条は、選挙権年齢が18歳以上とされたことをふまえ、「少年法その他の法令の規定について、検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。」とする。これを受けて、自由民主党の成年年齢に関する特命委員会では、少年法の適用対象年齢を、20歳未満から18歳未満に引き下げることに賛成の意見が多数出されたとのことである。しかし、当会は、少年法の適用対象年齢の引き下げに反対する。
2 少年法は、少年が、人格の発展途上にあって可塑性に富むことから、処罰よりも教育的手段によって再非行の防止を図る方が効果的であり、少年本人のみならず社会にとっても利益となるとの考え(教育主義)に基づき、20歳未満の少年に対して刑事手続きとは異なる特別な手続きを定めている。
 現在、少年法20条2項により、故意の犯罪行為で被害者を死亡させた罪の事件であり、罪を犯したときに16歳以上であった少年については、原則として検察官送致され(少年法20条2項)、事件を犯したとき18歳、19歳だった者に対しては死刑・無期刑が軽減されることもない(同51条)。重い障害を有する少年等の例外的事件を除いて、18歳、19歳の少年(以下「年長少年」という。)の犯した重大事件は、刑事裁判に付されているのが現状である。他方、少年事件では、成人では処罰されない「非行の虞れ」でも処分対象としている。また、成人の刑事事件であれば起訴猶予や罰金、執行猶予等の社会内処遇に付されるような軽微な非行事実であっても、保護観察処分や家庭裁判所の監督下での試験観察に付され、あるいは、必要があれば少年院送致がなされており、自由への拘束という面では、むしろ、成人の刑事事件よりも厳しい処分を採用して教育主義を貫いている。さらにこの観点から、少年院送致がされた場合には、刑事罰とは異なる教育的処遇が実施されている。さらに、立ち直った少年の社会復帰を容易にするために、少年時の事件について匿名報道を原則としている(同61条)。
3 検察官送致の対象とならなかった年長少年に対して、上記の教育主義に基づく少年法の規律が有益に機能していることは、少年事件を受任する弁護士が共有する実感である。年長少年を刑事事件に付すことにより、教育的配慮ができなくなり、再犯率の上昇等をもたらすなど、年長少年本人にとってのみならず、社会にとっても不利益となる可能性のほうが大きいものと考える。
4 子ども・若者育成支援推進法が、成人を迎えた者も広く若者と定義し、様々な支援を加えていることなどからみても、選挙権を有することと、国による支援・教育が必要であることとは一致するものではないことは明らかである。
5 以上のとおり、18歳、19歳の年長少年については、他の法令において成年とされたとしても、現に重大犯罪に対しては厳罰を加えることが可能となっているうえ、そうでない非行事件に関しては、教育主義の観点が貫かれているのであって、本人にとっても社会にとっても有益、有効な処分がなされているものといえ、現行の少年法の規律を適用することが相当と考える。

2015年(平成27年)7月31日
            第一東京弁護士会 
会長   岡    正 晶

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