• 2014.11.26
  • 声明・決議・意見書

参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明

 本日11月26日、最高裁判所は、平成25年7月21日に施行された第23回参議院議員通常選挙(選挙区選出議員選挙)において、最大4.77倍の投票価値の較差が生じていたことについて、「平成25年7月21日施行の参議院議員通常選挙当時、公職選挙法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下における選挙区間の投票価値の不均衡は、平成24年法律第94号による改正後も違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった」との判決を言い渡した。
 さらに本判決は、「上記選挙までの間に更に上記規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、上記規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。」として選挙無効の上告は棄却したものの、「参議院議員の選挙制度における投票価値の平等の要請や国政の運営における参議院の役割等に照らせば、(中略)都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって違憲の問題が生ずる上記の不平等状態が解消される必要がある」との判断を示した。
 これまで最高裁判所は、平成8年9月11日大法廷判決において、最大6.59倍の投票価値の較差があった平成4年7月施行の参議院議員通常選挙について、「違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態」であるとの判断を示したが、国会はその後、若干の定数調整を図るだけであった。そのため、平成21年9月30日大法廷判決において、最大4.86倍の投票価値の較差があった平成19年7月29日施行の参議院議員通常選挙について、「現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる。国会において、速やかに、投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて、適切な検討が行われることが望まれる。」との判断を示し、さらに、平成24年10月17日大法廷判決において、最大5.00倍の投票価値の較差があった平成22年7月11日に施行された第22回参議院議員通常選挙(選挙区選挙)について、「本件選挙当時、選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない」とするまでの判断を示したが、国会は、定数を「4増4減」する改正のみを適用し、抜本的是正を実施することなく第23回参議院議員通常選挙を施行したため、投票価値の較差最大4.77倍という上記最大較差5.00倍と実質的に異ならない較差を生じさせ、本件選挙当時、鳥取県の有権者が1票の選挙権を有するのに対し、北海道の有権者は僅か0.2票分の選挙権しかないという著しい不平等を生じさせるに至った。
 本判決は、この著しい投票価値の不平等を指弾するものである。
 国民主権の下、選挙権は極めて重要な国民の権利であり、民主主義の根幹をなすものである。本判決は参議院について、「多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとした」とした上、投票価値の平等について、「急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割がこれまでにも増して大きくなってきているといえることに加えて、衆議院については、この間の改正を通じて、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口格差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることにも照らすと、参議院についても、二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に、更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められる」との判断を示した。
 そして、憲法は、参議院議員を衆議院議員と同様に全国民の代表と位置付けており、決して都道府県代表としていないところ、本判決は、都道府県という行政単位が相応の合理性を有することを認めつつも、「これを参議院議員の各選挙区の単位としなければならない憲法上の要請はなく、むしろ、都道府県を各選挙区の単位として固定する結果、その間の人口格差に起因して上記のように投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では、上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっている」、「人口の都市部への集中による都道府県間の人口格差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、上記のような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っている」との判断を示した。
 このように、最高裁判所が、参議院議員選挙における投票価値の平等について、再三にわたり違憲状態にある旨の判断を示してきたにもかかわらず、国会が抜本的な対応をしないという事態が継続していることは、国会の怠慢とも言うべきものであり、国民の人権を守るべく活動する弁護士会としては、極めて遺憾である。
 このような中、本判決は、参議院議員選挙における投票価値の平等について、あらためて違憲状態にあることを強く示したものである。  
 当会は、投票価値の平等の確保が有権者の意思を公平に立法府に反映させる不可欠な憲法上の要請であることに鑑み、投票価値の平等を確保すべく、国会に対し直ちに公職選挙法等関連法を改正するよう強く求めるものである。

2014年(平成26年)11月26日
            第一東京弁護士会 
会長   神   洋  明

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