• 2014.11.14
  • 声明・決議・意見書

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」に関する会長声明

1 当会の意見
  第185回臨時国会において、国際観光産業振興議員連盟(以下「IR議連」という。)は、特定複合観光施設区域の推進に関する法律案(以下「本法案」という。)を提出している。本法案は、特定複合観光施設区域の整備の推進が観光及び地域経済の振興並びに財政改善につながるとして、整備推進の基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定め、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、総合的かつ集中的に行うことを目的としているところ(本法案第1条)、本法案の目的において言及されている観光及び地域経済の振興等の目的がどの程度実現できるかについては明確かつ客観的な試算は存在しないが、仮にそのような効果があったとしても、以下に述べる問題点が存在し、かつこれを解消する具体的方法が提示されていないという現状を鑑みて、当会は、本法案に反対する。

2 賭博罪との関係
  カジノに参加する行為やカジノ施設を運営する行為は、現行法上は賭博罪に該当するが、現行法では、競馬法、自転車競技法等一部の賭博行為が合法化され、これらの法律に基づく運営主体は、地方公共団体、特殊法人ないし独立行政法人という公的機関であり、運営に関する規制・監督についても法律によって詳細に定められている。他方、本法案では、民間企業がカジノ施設を運営することが前提となっており、カジノ管理委員会という規制機関を設けるとされているが、我が国の行政機関には公営ギャンブルに対する規制・監督については知見があるものの、民間企業運営のギャンブルについては知見がないことからすると、カジノ施設に対する規制・監督を適正に行う体制・規則を構築できるかどうか疑問である。

3 マネーロンダリング
  FATF(金融行動タスクフォース)勧告は、カジノ施設運営におけるマネーロンダリングの危険性を考慮して、カジノ施設を疑似金融機関として規制対象としている。IR議連が作成した平成25年11月12日付「特定複合観光施設区域整備法案~IR実施法案~に関する基本的な考え方(案)」(以下「考え方」という。)は、我が国で採用されているFATF勧告に基づく制度においてカジノ施設を追加する、カジノ施設内での現金、チップを使用しないキャッシュレスシステムを採用するという方法でマネーロンダリングを防止するとしている。しかしながら、我が国におけるFATF勧告に基づく制度によりマネーロンダリングを防止できるかどうかの具体的検証はなく、キャッシュレス化による対応についても、そもそも民間企業運営のギャンブルに対する監督・規制の経験がない状況において、所管の行政機関が適切な防止策を提示できるのか疑問である。

4 暴力団その他の反社会的勢力の関与
  賭博場からの利得は伝統的な暴力団の「シノギ」であり、そこで培われた「ノウハウ」を悪用して、暴力団その他の反社会的勢力がカジノ施設に関して利益を獲得するのを排除することの困難性をまず指摘しなければならない。前記「考え方」は、カジノ施設に係る参入要件と行為規制を厳格に規制するとしているが、暴力団員自ら運営に関与する場合であればともかく、カジノ施設の運営から暴力団の共生者を完全に排除することは現状では困難であるといわざるを得ない。

5 ギャンブル依存症、多重債務者の増加
  報道によれば、厚生労働省研究班が平成26年8月に公表した調査によると、我が国におけるギャンブル依存症患者は536万人に上り、成人男性の8.8%、成人女性の1.8%、全体では4.8%であり、これは全世界的にも高い数値であるとされている。「考え方」は、既に我が国にギャンブル依存症患者が相当数存在することを前提として、公営賭博分野を含めた調査の実施と実態の把握、依存症問題対応のための国の機関を創設する、依存症患者に対するカジノ立ち入り等の禁止措置の導入を検討するとしているが、このような状況においてカジノ施設を認めた場合、ギャンブル依存症患者や多重債務者をさらに増加させ、行政コストを増加させることにもなりかねない。

6 青少年の健全育成への悪影響
  本法案は、カジノ施設が青少年の健全育成への悪影響があることを前提として、「青少年の保護のために必要な知識の普及その他の青少年の健全育成のために必要な措置に関する事項」について必要な措置を講ずるものとしている。「考え方」では、青少年への悪影響について、入場者全員の本人確認を義務付けることにより青少年の入場を完全に排除する程度の対応策しか示されていない。青少年に対する悪影響排除のための具体的方法等が十分に検討されていないにもかかわらず、カジノ施設を解禁するのは問題がある。

7 治安・風俗の悪化
  カジノ施設解禁による治安・風俗悪化に関する対応について、「考え方」は、カジノ施設が設置される区域は厳格な管理規制区域となり、この地域におけるあらゆる行為は規制と監視の対象となるので、カジノの存在自体が地域風俗・治安環境の悪化をもたらすものではないとしている。しかしながら、カジノ施設解禁において検討されなければならないのは、カジノ施設における資金欲しさの窃盗、強盗その他の刑事犯罪の増加、ギャンブル依存症の増加等による風俗・治安の悪化であり、これらの現象はカジノ施設設置区域以外の区域においても発生しうるものである。カジノ施設とこれらの問題との因果関係については明確ではないが、これらの問題点についての対応策及び費用の検討なしにカジノ施設を解禁することは認めるべきではない。

2014年(平成26年)11月14日
            第一東京弁護士会 
会長   神   洋  明

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