• 2013.01.18
  • 声明・決議・意見書

給費制復活を含む司法修習生への経済的支援を求める会長声明

  司法修習生に対し給与を支給する給費制が廃止されて、丸1年が経過し、戦後初めて無給で司法修習を終えた第65期司法修習生が、裁判官、検察官または弁護士となり、法曹の第1年目をスタートさせた。
  給費制は、その1期前である第64期司法修習生から廃止される予定であったところ、平成22年11月、国会において議員立法により1年間延期され、その間にその存廃をめぐり、「法曹の養成に関するフォーラム」において他の法曹養成に関するテーマと共に議論されたが、同フォーラムでは、十分な議論の場も理解も得られないまま、貸与制を基本とし経済的困難な場合に一時的な返還猶予期間を設けるとの取りまとめがなされるに留まった。
 無給となった司法修習生は、修習専念義務を課せられている結果、必然的にその大半が修習期間中の生活費に満てるために、「貸与制」を利用することになった。法科大学院修了を司法試験の受験要件としている現行制度のもと、司法試験合格段階で回答者の52%が奨学金の借入れをし、その平均額は340万円にのぼっている。更に「貸与」を受ければ借入金は法曹になった段階で600万円以上にもなる。社会人や学部時代から奨学金を受けている者に至っては奨学金の借入れが1000万円を超える者もあった。また、司法修習の配属地は必ずしも本人の意思が認められないにもかかわらず、その配属地により転居費用、家賃、交通費などの負担は大きく異なっている。
 このように司法修習生の経済状況が変化したことについては、昨年のアンケート調査によれば、司法試験に合格しても修習辞退を考えた者が回答者中28%であり、そのうち86%が貸与制移行による経済的不安をあげている。また、給与が支給されなくなった結果、裁判所共済への加入もできず、国民年金や国民健康保険の保険料も貸与金で支払うことになった。無収入であるから借家契約ができない、保育園の優先順位も就労者ではなく学生と同じ扱いとなり不利になる、などといった不都合も報告されている。
 このような議論に対しては、第1に弁護士は将来高収入が期待できるのだから、その程度の借入れはすぐに返済できるだろうとの反論がある。しかしながら、司法制度改革では将来の弁護士に対する社会的ニーズの増加を見込んで弁護士人口を急増させたにもかかわらず、現実の弁護士に対する社会的ニーズはそれほどまでの増加をみておらず、近年の新人弁護士の就職難は年を追うごとに深刻となっており、弁護士となれば将来高収入が期待できるという前提は、必ずしも妥当しない状況になっている。
  第2に、裁判官及び検察官はともかくとして弁護士は民間人であって、民間人の職業訓練に国費から給与を出すのはおかしいとの反論がある。
  これについては、給費制が司法修習制度とともに戦後60年以上にわたって維持されてきた理由に遡って考える必要がある。戦前は、裁判官及び検察官となる者の司法官試補の修習が有給、弁護士となる者の弁護士試補の修習は無給であり、かつ修習の内容もそれぞれ別々であったが、戦後改革の一環として統一修習を旨とする司法修習が行われることとなった。その狙いは、裁判官及び検察官のみならず、弁護士についても、法曹資格を取得するまで、全く同一の修習の機会を設けることで、質の高い人権の守り手としての法曹を一元的に育てようとすることにあった。戦前において権力の暴走をチェックすべき司法が在朝、在野を問わず十分に機能しなかった反省から生まれた制度ということもできよう。
 給費制の問題は、法曹養成制度の問題と併せ、憲法の基本原則である三権分立との関係で捉える必要がある。すなわち、三権分立のもとでは、司法権が立法府や行政府との対立緊張関係のもと適切に行使されることによって、国民・市民の権利利益の保護が図られていることは論を俟たない。司法権を直接行使するのは裁判所であるが、司法権の行使が適切に行われるためには、裁判官のみならず、刑事訴訟における検察官並びに弁護人、民事訴訟や行政訴訟において活動する弁護士も司法権の担い手であり、三権分立の重要な構成要素であるといわなければならない。そして、裁判官、検察官及び弁護士から構成される法曹三者は、国民の基本的人権を中核とする権利の実現に不可欠の存在である。なかんずく、弁護士は国民の自己実現としての基本的人権の擁護と社会正義の実現を第一の使命とし、三権分立の重要な構成要素であることを併せ考えるならば、一定の高さの能力と知見を備えた弁護士を育成してあまねく国民に法的サービスを提供することは、まさに国民の利益に資するものである。
  また、弁護士は公権力の発動主体である公務員ではないが、人権の擁護主体としてさまざまな権力の活動をチェックし、新しい人権の登場に力を貸し、日常の活動を通じて、法化社会の進展に最も深く関与している。憲法も「資格を持った弁護人」の弁護を受ける権利を憲法上の権利とし、人権保障の要の職業として弁護士を位置づけている。司法制度改革審議会意見書が弁護士を「社会生活上の医師」と位置づけたことも記憶に新しい。いわば公共的インフラとしての弁護士の質が裁判官及び検察官と同等であることが要請される理由がここにある。
  このように裁判官及び検察官のみならず弁護士についても、法曹として一定の質の確保を図るためには、単に司法試験に合格したのみでは足らず更に専念義務を課した上で司法修習を義務づける必要があることから、弁護士についても国家国民の負担において養成されるべきであって、その司法修習に必要な費用が給与として支給されていたのである。公務員でない者についても長期間にわたって修習に専念させ、就労を禁止するからには、その補償をしなければならないのは当然のことである。
  以上のとおり、貸与制にはさまざまな問題点があり、しかも現在の法曹志望者の激減という事態の一因となっている可能性が高い。このような傾向が続けば、質の高い法曹養成は根底において基礎を失うことになりかねない。
  平成24年7月27日に成立した裁判所法の一部を改正する法律においては「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から、法曹の養成における司法修習生の修習の位置付けを踏まえつつ、検討が行われるべき」ことが確認されており、衆議院法務委員会の付帯決議においては、「司法修習生に対する経済的支援については、司法修習生の修習専念義務の在り方等多様な観点から検討し、必要に応じて適切な措置を講じること」について「特段の配慮」が求められている。これを受けて政府に設置された「法曹養成制度検討会議」では、司法修習生の経済的支援を含む法曹養成を巡る諸問題について活発な議論がなされて、まさに結論が出されようとする段階にあると聞く。給費制の復活、そうでなければこれに準ずるような経済的支援策が、同会議において取りまとめられ、かつ立法化されることを当会として強く要請するものである。
                                        

以上

2013年(平成25年)1月18日
第一東京弁護士会
会長代理副会長 前 田 俊 房

一覧に戻る
menu