• 2011.03.24
  • 声明・決議・意見書

衆院小選挙区の区割り基準の1人別枠方式部分及び選挙区割りを憲法違反の状態とした最高裁判決に対する会長声明

 最高裁判所は、昨日、平成21年8月30日施行の第45回総選挙(衆議院小選挙区選出議員選挙)における選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。(なお、選挙区割り自体については、多数意見は、憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったとはいえないとして違憲ではないとしたが、違憲であるとする反対意見がある。)
 本判決が選挙区割りを憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたとする理由は、上記総選挙当時において、選挙区間の投票価値の較差は最大で2.304倍に達し、較差2倍以上の選挙区の数も増加してきており、このような較差を生じさせる主要な要因が衆院議員小選挙区選出議員の選挙区割に関するいわゆる1人別枠方式であって、1人別枠方式に係る選挙区割基準は立法当時の合理性が失われて憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っており、同基準に基づいて定められた選挙区割りも同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた、というものである。
 本判決は、最高裁判所が衆議院議員選挙の選挙区割り(議員定数配分)について「違憲状態」であったと判示した初めての判決として大きな意義を有することはもちろん、選挙区間の投票価値の較差が「最大で2.304倍に達し,較差2倍以上の選挙区の数も増加してきて」いる事実(較差2倍以上の選挙区は、平成12年国勢調査結果に基づけば9選挙区であったが、上記総選挙当時は45選挙区であった)を前提として、「1人別枠方式がこのような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていた」のであって、遅くとも上記総選挙当時には同方式及び同方式に基づいて定められた選挙区割りがいずれも「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた」と明確に判示したことは極めて重要と言わなければならない。
 最高裁判所は、これまでの判例において、憲法が選挙権の内容の平等、すなわち投票価値の平等を要求していることを明らかにすると同時に、議員1人当たりの選挙人数ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準としつつも、国会がそれ以外の合理的要素も考慮することを許容されているとして、1人別枠方式を含む選挙区割りの基準についても、国会の裁量の範囲を逸脱するものとはいえないとして憲法に反しないと判示していた(最高裁平成19年6月13日大法廷判決)。
 これに対して、本判決は、1人別枠方式が採られた理由に照らして同方式の合理性には時間的な限界があり、上記判例の対象となった平成17年9月施行の総選挙当時とは異なって平成21年8月施行時にはもはや1人別枠方式の合理性は失われていたとして、同方式を主要な要因とする投票価値の較差が憲法の要求に反する状態に至っていたというものである。投票価値の平等を強く求めるとともに、今後の選挙区割りにおいて1人別枠方式によることができないことを明らかにした画期的な意義を有するものと評することができる。
 本判決の多数意見は、選挙区割りは違憲の状態に至っていたとしながら、憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったとはいえないとして選挙区割り自体は違憲ではないとした。本判決に選挙区割りも違憲であるとする反対意見があることが示すとおり、平成21年8月施行の総選挙の選挙区割りの合憲性には疑義があるところである。
当会は、投票価値の平等の確保が有権者の意思を公平に立法府に反映させる不可欠な要因であることに鑑み、内閣、衆参両院及び衆議院議員選挙区画定審議会に対し、次のとおり求めるものである。
① 内閣及び衆参両院は、本判決の趣旨に沿って、直ちに1人別枠方式を定める衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条2項を改めるとともに、将来にわたって、更にできる限り投票価値を平等にするための措置をとること。
② 衆議院議員選挙区画定審議会は、同審議会設置法3条2項の改定を受けて、速やかに、選挙区間の投票価値の較差が2倍未満になるような選挙区割りの改定案を内閣総理大臣に勧告すること。

2011年(平成23年)3月24日
第一東京弁護士会
会長 江 藤 洋 一

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