• 2010.07.21
  • 声明・決議・意見書

司法修習生の給費制の存続を求める会長声明

第1 声明の趣旨
 裁判所法改正により、平成22年11月から司法修習生に給与を支給する制度(以下「給費制」という)が廃止され、その代わりに希望者に対して修習資金を貸与する制度(以下「貸与制」という)が実施されるが、第一東京弁護士会は、貸与制の実施に反対し、給費制の存続を強く求めるものである。

第2 声明の理由
1 貸与制の導入に関する裁判所法の改正に至る経緯及びその背景
 国会は、平成16年11月、給費制を廃止し、それに代えて貸与制を実施するとして、裁判所法を改正したが、実施時期が当初の法案では平成18年11月からの実施としていたものの、貸与制について周知する必要から実施が4年間延期され、平成22年11月からと定めた経緯がある。
 また、給費制の見直しの理由として、受益と負担の観点から、必要な経費は修習生が負担すべきであり、国家公務員の身分を持たない者に対する支給は極めて異例の取扱いとし、また、法曹人口に係る情勢が大きく変化したこと等が挙げられていたが、国家の負担の問題は、司法予算という枠内での予算の増減調整ではなく、国家予算という大局的な観点からの予算措置がなされるべきであり、司法制度改革の百年の大計に鑑みて、このまま本年11月に給費制を廃止し、貸与制を実施することは、21世紀の日本を支える司法制度を構築するにあたり中長期的には大きな支障となる。

2 裁判所法改正後の実情
 法科大学院は、全国各地に74校が設立され、例年、5800~5400名の入学者があった。当初の司法制度改革審議会での予想を大幅に上回り、いわば法科大学院の乱立状態となったが、一方、新司法試験合格率は累積合格率では約6~7割に及ぶものの、単年度の合格率(対出願率)は、平成18年度が47.2%、19年度が34.3%、20年度が26.3%、21年度が21.0%にとどまり、期待はずれという報道がなされている。また、法科大学院への志願者全体につき、平成19年度は4万5207名であったものが、平成20年度では3万9555名で約6000名の減少、平成21年度では2万9714名で約1万名の減少、平成22年度では2万4014名で5700名の減少と、顕著に減少傾向がとどまらない状況となっている。
 このような状況は、法曹を目指すにあたり単年度の合格率が低いことに対し投下する負担と危険が大きすぎる、という心理が一般化し始めたとからであると思われる。
 法科大学院の費用として、入学金や授業料も高額であり、それに社会人入学者は家族の生活を支えなければならないことから、現実には未修者が法科大学院で学ぶということは、1000万円もかかる大事業といっても過言ではない。そして、司法試験合格後の司法修習時代においては、職務専念義務によりアルバイトさえ行うことができない。更に、急激な法曹人口の増加により、弁護士事務所への就職が困難な状況にあり、また、裁判官、検察官の増加はわずかである。このような状況の中で、司法試験の合格率は、単年度では予想をはるかに下回っており、受験回数も修了後5年間に3回と制限されている。
 そのうえ、現在の給費制が廃止されれば、経済的な窮状に陥るか、貸与制を利用して多額な借金を背負うか、それとも、親族等の援助によって生活していくのかの選択に迫られる。
このような現状において、法曹を目指す有為の人材が減少していくことは必至である。

3 司法修習生に対する給費制の役割
 司法修習生に対する給費制は、法曹としての公共的使命を果たすための修習に専念するために生活を保障するものであって、有為な人材の確保、公共心の醸成された人材の育成、あるいは、司法修習後に弁護士になった者の社会への貢献・還元という諸点から極めて重要な役割を果たしてきた。
 従来の法曹養成制度は、決して「金持ちにしか法曹になれない制度」ではなく、多様な人材が、裁判官、検察官、弁護士として輩出されてきた。この点、非常に高く評価すべきであり、また、将来もそうあるべきである。また、司法制度改革審議会も「資力がない人、資力が十分でない者」が法曹となる機会を求めている。
 ところが、法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度の下において、大学卒業後、さらに法科大学院に2年ないし3年間在学することが必要とされ、その後も合格するまでに何年間かを要することがあり、法曹を志す者は司法修習生となるまでに多大な経済的負担を負っている。そのうえ、司法修習生となっても、給費制が廃止されれば、経済的負担の更なる増大は避けられず、21世紀の司法を支えるにふさわしい資質・能力を備えた人材が、経済的事情から法曹への道を断念する事態も想定され、その弊害は極めて大きい。法曹を志す人に経済的に過度の負担を強いることのない法曹養成であってこそ、我が国の司法界に継続的に多数の有為な人材を供給することができるのである。
 給費制は、修習の実効性を挙げるべく、兼業の原則禁止をはじめとする厳しい職務専念義務を課す一方で、その生活を保障したものである。この給費制を廃止しておきながら、司法修習生の職務専念義務を課したままアルバイト等を禁止するというのでは司法修習生にとって酷であり、貸与制はまさに「借金の先送り」にすぎない。法科大学院の奨学金の返済に加えて、さらに修習資金貸与の返済を抱えさせることになる。また、給費制は、現行司法修習制度の下、法曹、とりわけ弁護士の公共に対する使命を自覚・実行させる役割を歴史的に果たしてきた経緯があるが、その使命感は、給費制の現行司法修習によって醸成されてきたことが主な要因となっていたことを忘れてはならない。

2010年(平成22年)7月21日
第一東京弁護士会
会長  江藤 洋一

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