• 2008.05.22
  • 声明・決議・意見書

「少年法の一部を改正する法律案」に関する会長声明

 2008(平成20)年3月7日、政府は「少年法の一部を改正する法律案」を閣議決定し国会に上程した。

 この少年法「改正」法案(以下「改正法案」という。)のうち、①重大事件の被害者及び遺族(以下「被害者等」という。)による少年審判の傍聴を制度化すること、②被害者等による記録の閲覧・謄写の範囲を拡大することは、少年法の根幹である「少年の健全な育成を期す」という理念・目的に大きな影響を与えざるを得ない。

 当会としては、改正法案の審議に当たっては、少年法(以下「法」という。)の理念・目的を損なうことなく、被害者の手続関与のあり方を慎重に検討されるよう強く要望するものである。

1 法の理念・目的
 そもそも子どもは可塑性に富む成長発達段階にあり、精神的にも未発達であるが、審判に付される「少年」は、これに加えて、両親の不和・離別、虐待その他の被害経験等の不遇な環境で生育している場合が少なくない。そのため、法は、少年の健全な成長発達を願い、かつ、そのことが社会のためでもあることを共通の認識とし、「少年の健全な育成」(法1条)を基本理念として掲げた。
 また、審判は「懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行ある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない」(法22条1項)、「公開しない」(同法22条2項)と規定されているが、これは、法の理念・目的を踏まえ、まさに少年の更生を何よりも重視して審判手続を進めることを表明したものである。

2 当会は、「被害者等の傍聴」について、次のとおり提案する。
(1)「傍聴の相当性」を判断する上での要件の厳格化
① 傍聴できる者の範囲について
 審判の非公開の趣旨を没却しないように、その範囲を厳格に定め、適用されるべきである。
 また、傍聴した被害者等について、少年の更生に反しないよう一定の範囲、事項について守秘義務を課すことも検討されるべきである。
 上程された改正法案では、傍聴できる者は被害者およびその遺族となっているものの、傍聴する被害者等に適当な者を付き添わせることができるとされている。しかし、付き添う者の要件は極めて不明確であり、誰に対しても傍聴が原則許可されるような運用ともなりかねない。
 審判では、少年の生育歴や家庭環境等のプライバシー性の極めて高い事柄が取り上げられるが、これらの情報が無闇に社会に流れることで、少年の更生の妨げになってはならないのである。
② 傍聴の対象となる保護事件の限定
 傍聴の対象となる保護事件は、原則として事件が検察官に送致される「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって、その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの」(法20条2項)に限定されるべきである。
 これは、このような重大事件においては、少年審判手続において、被害者等に限り傍聴を認めることは、必ずしも法の理念に反するものとは一概にいえないと考えられるからである。
 改正法案では、傍聴を認めるための保護事件の範囲が不明確である。
③ 付添人の意見を求めること
 付添人は少年事件手続において一翼を担う立場にあり、少年の立場に立って事件を調査し、事実関係を検討している。家庭裁判所は、付添人に被害者等の傍聴の是非についての意見を求め、その意見を考慮することが必要である。
(2)少年審判廷における傍聴席の確保等と予算化
 法改正を検討するに当たっては、被害者等が安全に傍聴でき、かつ、少年審判手続に大きな影響を与えないよう、審判廷の物理的構造・環境を構築すべく予算化することが必要である。
 審判廷は、教育的・福祉的機能を果たすため、刑事訴訟の法廷よりも相当狭くなっており、現在の審判廷の構造では傍聴席を確保できる状況にない。また、現状においては、少年が傍聴席から隔離されていないことからの保安上の問題もあり、不測の事態を回避する方策を検討すべきである。
(3)見直し規定の設定
 改正法施行3年後に見直す旨規定をおくべきである。
 傍聴制度は、法の定める非公開原則の例外であり、少年審判手続に大きな影響を与えるものであるから、傍聴制度実施後の運用状況、影響度等を検証、精査することが重要である。その検証・精査の期間としては3年間が適切である。

3 当会は、「被害者等の記録の閲覧・謄写」の範囲に関して、次のとおり提案する。
 閲覧・謄写の対象を「非行事実に係る部分」に限定すべきである。
 2000(平成12)年の少年法改正では、その対象を「非行事実に係る部分」に限定していた。改正法案では、「家庭裁判所が専ら当該少年の保護の必要性を判断するために収集したもの及び家庭裁判所調査官が家庭裁判所による当該少年の保護の必要性の判断に資するよう作成し又は収集したもの」のみを例外とし、その他の記録は閲覧・謄写を原則認めることとしている。しかし、このような曖昧な規定の仕方では、少年やその関係者のプライバシーの根幹に関わる事項まで閲覧・謄写の対象となり、法の保護・教育主義を著しく損ない、少年の更生に大きな影響を与えかねないからである。

4 以上のとおり、少年法改正法案のうちの上記2点に関しては、法の理念・目的の根幹をなしている審判の在り方や、守秘義務が要請される要保護性に関する資料の取扱いといった少年の更生に極めて大きな影響を与える問題であるから、拙速に改正法案を採択することなく、慎重に審議すべきである。

2008(平成20)年5月22日
第一東京弁護士会
会 長  村 越  進

一覧に戻る
menu