• 2008.04.21
  • 声明・決議・意見書

非司法競売手続の導入に反対する会長声明

 新聞報道によれば、本年3月31日、法務省「競売制度研究会」は、不動産の競売に関し、現行の裁判所による競売手続(司法競売手続)の存続を前提としつつ、裁判所の関与しない不動産競売手続(非司法競売手続)を追加オプション的に導入するとの検討結果を取り纏めた(但し、複数案の併記)とされるが、以下の理由によりその導入に強く反対する。

 第一に、我が国の競売手続では、かつて暴力団をはじめとする反社会的勢力や悪質な競売ブローカーなどによる執行妨害が横行し、迅速な執行が阻害され、売却価額も低落するなど債権者・債務者双方に不利益を与えてきた。そこで、平成8年から平成16年にわたり数次の法改正を経て、不当な執行妨害を排除し、透明かつ迅速な手続とするための改善がなされてきた。また、暴力団などの反社会的勢力による不当な執行妨害を排除することができたのは、かかる法改正のみならず、裁判所という司法機関が手続を主宰していることが大きな理由であり、裁判所を中心に反社会的勢力排除を図るとの運用がなされてきた。民間機関が主宰する非司法競売手続においては反社会的勢力が排除されるとの保証はなく、不当な執行妨害を排除しきれるのかとの懸念が大きく、これまでの関係者の努力が水泡に帰すおそれがある。現在の制度の下でも売却率は高く、新たな制度自体の導入の立法事実は存在しない。

 第二に、不動産競売制度は一般市民の参加を前提として構築されている制度であり、一般市民による買受後のリスク判断のため、現況調査報告書・評価書・物件明細書のいわゆる三点セットが必要である。これにより、当該不動産の占有権原・法定地上権・賃借権等の権利関係や不動産の評価額等の情報提供が適切に行われ、一般市民も安心して参加が可能となる。これに対し、非司法競売手続導入の立場では、現行の三点セットの作成に多くの時間が必要とされる点を問題視し、新築直後のマンションの競売や債務者側が競売に協力的な場合もあり得るため三点セットを不要として差し支えない場合があると論ずるようである。しかしながら、三点セットの作成に時間がかかる点は標準処理期間の導入など現行制度の改正ないし制度運用のあり方をもって十分対応が可能であり、これをもって非司法競売手続を導入する根拠とはなりえない。不動産競売制度は一般市民の参加を前提とする制度として構築されており、非司法競売手続においても一般市民の参加が想定される以上、一般市民による買受後のリスク判断のため、三点セットを欠く制度の導入は許容できない。

 第三に、民事執行制度は、強制力をもって民事上の債権の満足又は保全のための手続を実施する制度であり、これは司法機関による法的手続の保障の下に行使させるという歴史的経過を経ており、現在の民事執行手続は、競売開始決定、競落許可決定、不動産引渡命令等の裁判手続を経由しなければ最終的な強制力を行使できないという、手続保障の制度が確立されている。
 しかしながら、今回の非司法的競売の提案は、債権者が競売手続を主宰し、後順位抵当権者、賃借人、同居人、労働組合などの占有者等、落札不動産に対する第三者の権利を、裁判によることなくすべて消除させ、競落した不動産の占有者に対し、競落人から裁判所に対し不動産引渡命令を申し立て、自らの所有権行使の実現を可能とすることを予定していると思われ、一種の自力救済を容認するおそれがある。今回の提案は、著しく手続保障に欠ける提案であり、とうてい賛成することはできない。

 第四に、非司法競売手続においては、競売価格に下限を設けない方法も可能な案が検討されているが、かかる方法は不当な廉売を許容し、債務者・保証人・物件所有者の利益を不当に損なうおそれがある。米国ではノンリコースが普及し、法制度上又は実務上、債務者らは競売後に残債務の請求を受けないことがあるのに対し、我が国では競売後も残債務の請求を受けるため、競売価格に下限を設けない方式を認めることは債務者らの負担を不当に加重するおそれがある。
第五に、非司法競売手続は導入されても現行の司法競売手続を排除するものではなく、追加オプションであり、当事者の合意により自由意思で採否を決定できると説明されているが、融資時における債務者らと債権者との力関係の優劣は明らかであり、これにより手続の公正さや適正性が担保されるとは言い難い。また、非司法競売手続が実際に開始された後も司法競売手続に戻るとの手続面が確保されている案もあるとのことであるが、融資時に合意した手続が開始された後に非司法競売手続に異論を唱えることが果たしてどれだけ可能か疑問があり、むしろ手続の混乱と不要な時間を費やす結果となるおそれがある。

 以上の通り、非司法競売手続の導入には立法事実が欠如し、またかえって多くの弊害が想定されるため、その導入に強く反対する。

2008(平成20)年4月21日
第一東京弁護士会会長 
村越 進

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