• 2007.07.30
  • 声明・決議・意見書

光市母子殺害事件弁護人への脅迫行為に抗議するとともに、刑事弁護人が果たす役割について市民の理解を求める声明

 広島高等裁判所では、現在、最高裁判所から差し戻された、山口県光市で当時18歳の少年が主婦と少女を殺害したとされる、いわゆる「光市母子殺害事件」の裁判が行われている。

 この事件に関しては、本年5月29日に、日本弁護士連合会宛に、「元少年を死刑に出来ぬなら、元少年を助けようとする弁護士たちから処刑する」などと記載された脅迫文が、模造の銃弾とみられるものとともに送達されてきた。また、報道によれば、7月7日にも、朝日新聞社及び読売新聞社に対しても同様の脅迫文が送達されてきたという。

 これらの行為は、弁護活動を暴力や脅迫によって否定しようとする極めて卑劣な行為であり、到底容認することができない。当会は、こうした行為に強く抗議するとともに、この機会に、弁護人が刑事事件において果たす役割について市民に理解を求めるべく、本声明をするものである。

 この事件は、理不尽にも、母親と幼い子どもの命が奪われた痛ましい事件であり、残された遺族の方の心情も察するに余りあるものがある。また、この事件に対しては社会の関心も集まっている。

 しかしながら、被告人の弁護人依頼権は、社会の関心がどのようなものであるかに関わらず、十分に保障されなければならないものである。

 弁護人依頼権を含む刑事被告人の諸権利は、人類が、長い歴史の中での幾多のあやまちと反省を踏まえて、適正な刑事裁判を実現するためにたどり着いた叡智の結晶である。

 憲法37条3項は「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人がこれを依頼することができないときは、国でこれを附する」と規定して、被告人の弁護人依頼権を憲法上保障している。この被告人の弁護人依頼権の保障は、適正手続に則って、えん罪を防止し、罪刑の均衡を実現するなど、被告人に適正な裁判を受ける権利を保障する上でも不可欠なものである。この意味で、弁護人の刑事訴訟手続における弁護活動については、その自由な活動が最大限保障されなければならない。

 このような弁護人の役割に鑑み、国連の「弁護士の役割に関する基本原則」は、その第16条において「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職責をすべて果たしう得ること、自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談し得ること、確立された職務上の義務、基準、倫理に則った行為について、弁護士が、起訴あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないことを保障する」と定めている。

 以上のような憲法及び上記国連原則の趣旨に鑑み、当会は、今回の「光市母子殺害事件」の被告人の弁護団に対する前記脅迫行為に強く抗議するとともに、裁判員裁判を2年後に控え刑事裁判が市民に身近になろうとしている今こそ、弁護人依頼権など憲法で保障された被告人の諸権利と刑事弁護人の活動に対する社会の理解を求めるため、全力を尽くす所存であることを表明する。

2007(平成19)年7月30日
第一東京弁護士会
会 長  加 毛   修

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