• 2005.07.15
  • 声明・決議・意見書

「少年法等の一部を改正する法律案」に対する会長声明

 政府は、本年3月1日、「少年法等の一部を改正する法律案」(以下『少年法等「改正」法案』という。)を閣議決定し、同日付けで国会に提出した。
 この「改正」法案は、①警察官による触法少年及びぐ犯少年に対する調査権限を拡大強化すること、②少年院に送致可能な少年の下限年齢を撤廃すること、③保護観察中の少年の遵守事項違反に対し、家庭裁判所の決定により当該少年を少年院等に送致できるとすること、④非行事実に争いがない場合であっても、一定の重大事件において家庭裁判所が職権で弁護士である国選付添人を選任できるとすること、を主な内容としている。
 しかしながら、以下に述べるとおり、④の国選付添人制度を除き、いずれも制度化することには反対である。

1 触法少年及びぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与について
 少年法等「改正」法案は、触法少年及びぐ犯少年に対する警察官の任意調査権限を明確化し、さらに一定の強制調査権限を認める。しかしながら、触法少年及びぐ犯少年の調査の主体は、あくまでも児童相談所あるいは家庭裁判所であって、警察はその補助機関として位置づけるに止めるべきである。なぜならば、触法少年、特に重大な事件を犯した少年の多くは、被虐待体験を含む複雑な生育歴、あるいは少年自身が人格を傷つけられた経験を有しており、このような少年に対するケアは、福祉的・教育的観点に立ち、少年の非行に至る背景から調査検討する必要があるからである。法務省は、警察が現在行っている触法少年及びぐ犯少年についての調査の法的根拠を明記することが改正の理由であると説明しているが、現行法の児童相談所の調査または家庭裁判所の調査・審判の制度で十分対応できるものである。むしろ、調査権限を付与することによって、従来、通告の前提としてのみ認められていた警察の調査よりも詳細な調査を行ったり、通告後も調査を行うなど、警察の調査権限が拡大する危険性があり、さらには、警察が少年や関係者から、自白の強要等の不適切な取調べを行ってしまい、事案の真相の解明を阻害してしまう恐れもある。
 触法少年の調査の現状が不十分な点があることは否めないが、児童の心理や特殊性については専門外の警察官による調査は適当ではない。現状の問題点は、児童相談所や福祉機関の充実強化をもって対応すべきである。
 また、調査の対象としてぐ犯少年も含まれることとされているが、ぐ犯少年の調査は要保護性(少年の資質、環境問題)に重点が置かれるものであって、そもそも警察による調査はほとんど必要ないのである。


2 少年院送致年齢の下限の撤廃について
 少年法等「改正」法案は、少年院送致年齢の下限を撤廃し、法的には、小学生でも少年院に送致できるとの内容になっており、厳罰化が進められたものとなっている。しかしながら、14歳未満の少年に対しては、現行の少年院における集団的規律による矯正教育が有効に機能することは到底期待できない。触法少年の多くは、人格形成が未熟で対人関係を築く能力に欠けているのであって、そのため、このような少年の再非行防止のためには、暖かい人間関係を中心とした環境の中で生活力を身につけさせるようにすることが必要なのである。14歳という年齢は、長年にわたる心理学教育等の学問的な研究結果から採用された年齢制限であり、その重要性を看過すべきではない。
 14歳未満の少年に対して相当期間閉鎖的な処遇を行うべきケースと判断された場合については、児童自立支援施設を充実強化し、必要な場合には、家庭裁判所による強制的措置の規定を活用すること(少年法第6条第3項)によって対応すべきである。
 現実問題として、14歳未満の少年、例えば小学生が収容されるとして、矯正施設(少年院)においてそれだけの物的人的予算措置の検討までがなされているとは考えられず、現場の担当者自身が実施の困難さに困惑を示していると言われている。
 このように、現行の児童福祉施設等の充実強化、さらには家庭裁判所、児童相談所等の適切な連携こそが必要であり、下限年齢の撤廃には反対である。


3 保護観察中の遵守事項違反を理由として家庭裁判所が少年院送致等の保護処分決定ができるとすることについて
 少年法等「改正」法案は、保護観察中の少年が遵守事項に違反し、その程度が重い場合に、家庭裁判所の決定により当該少年を少年院等に送致することを可能とする制度を導入している。しかしながら、いったん保護観察処分が言い渡された少年に対し、保護観察中の遵守事項違反という問題だけで、少年院送致処分を言い渡すというのは、保護観察処分を言い渡した際の非行を再度考慮していると考えざるをえず、二重処罰の禁止に違反する恐れがある。
 この制度は、保護司による指導がなかなか困難な少年、あるいは保護司の面接に来ない少年に対しては、威嚇をもって更生へ導く以外ないという意図のもとで検討された結果、法案化に至ったものであるが、遵守事項を守らなかったら施設に収容されるという「脅し」、「監視」の関係の下では、真に少年の立ち直りを図ることは困難である。保護観察は、少年と保護司との信頼関係に基づいて行なわれるべきであって、少年が、保護司を信頼して素直に話せる関係を築くことこそが必要である。
 そして、問題の深刻な少年については、保護司に委ねるのではなく、保護観察官による専門的見地からのきめ細かな指導援助によって対処すべきである。
 そもそも、保護観察の問題点は少年に尽きるものではなく、本来の社会内処遇として保護観察制度による処遇が効果を上げるためには、保護観察官の増員及び保護司の選考方法の改善等による根本的方策を検討すべきである。
 また、現行法上、保護観察処分が言い渡された少年について、ぐ犯事由が認められる場合には、保護観察所の長は家庭裁判所に通告することができるとする「ぐ犯通告制度」があるが(犯罪者予防更正法第42条第1項)、この制度はほとんど利用されていないのが現状のようである。現行の法律の運用をしないままに少年院送致を威嚇手段として保護観察の実効性を確保しようとするのは適当ではない。


4 国選付添人制度の拡充
 少年法等「改正」法案では、一定の重大な事件について国選付添人制度の導入を提案している。一定の事件に限定されている等まだまだ不十分であるといわざるをえないが、従来の国選付添人制度を一部拡充したという限度では評価することができる。

 以上のとおりであり、現状の問題点は現行の法律の適切な運用や児童相談所及び児童福祉施設等の機能の充実によって対応すべきである。国選付添人制度の導入を除き、「改正」法案には到底賛成できない。

平成17年7月15日
第一東京弁護士会
会長  星 德 行

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