• 2004.03.02
  • 声明・決議・意見書

消費者保護基本法改正についての意見書

1 はじめに
 消費者保護基本法の改正法案が、議員提案により、本通常国会に上程される見通しとなっている。

 現行消費者保護基本法は、1968年の立法当初からその不十分さが指摘されていたうえ、その後事業者と消費者の構造的な格差がますます拡大し、消費者被害は増加の一途をたどっているところから、その抜本的な改正が必要であるとの指摘がなされてきた。

当会は、同法の改正案の検討が各政党間の最終調整段階にあることを踏まえ、以下の通り意見を述べる。


2 消費者政策の基本理念と消費者の権利を明確化すべきである。
 消費者政策の基本理念においては、まず消費者の権利を掲げ、次にその権利の実現擁護が消費者政策の基本理念であることを、明確に定めるべきである。

 この点については、まず消費者の自立支援を理念とし、消費者の権利をその理念のなかで記載するという考えかたが報道されている。しかし、このような規定の順序では、消費者の権利を実現する施策よりも先に消費者の自立を要求するという解釈がありうるし、消費者の権利が間接的な考慮事項に過ぎないものと誤解されるおそれもある。したがって、このような規定では、かえって消費者政策の縮小・後退を許容することとなりかねない。歴然として現存する消費者と事業者間における情報・交渉力・経済力等の格差に鑑みれば、消費者政策の理念はあくまでも消費者の権利の実現擁護にあると位置付けるべきである。

 また、消費者の権利を明確に掲げることは、濫用のおそれがあるので適当ではないという意見があると聞く。しかし、消費者の権利の重要性を考慮するとき、その濫用の恐れだけを根拠に直ちに明確化を避けるということは、消費者政策に対して及び腰と言わざるを得ない。さらにここで明記された権利は、消費者政策の基本方針を示すものであり、具体的権利の要件・効果などは今後個別立法や制度改革に際し定められるという関係になる。したがって、消費者保護基本法に消費者の権利を明記することで濫用が生じるということはありえない。また、消費者の権利の濫用的行使を危惧するのであれば、むしろ逆に消費者の権利の内容及び行使要件を具体化したうえ、十分な消費者教育を施すことが重要である。消費者の権利をあいまいな規定にすることでは、何ら解決にならないのである。


3 消費者の権利内容を具体的に列挙すべきである。
 国生審平成15年5月報告書「21世紀型消費者政策のあり方について」においては、消費者の権利の具体的内容として

 ①提供される商品役務に関し安全を確保される権利、②消費行動に必要な情報を得る権利、③商品役務について適切な選択を行う権利、④消費活動による被害の救済を受ける権利、⑤消費者教育を受ける権利、⑥消費者政策に意見を反映させる権利、を挙げるが、これら権利を消費者保護基本法の中で具体的に列挙すべきである。

 さらに、消費者が自らの利益となる選択を行いうるためには、情報を提供される権利や選択の権利が確保されるのみでは不十分であり、公正な取引条件と取引方法がその前提として必要であるとの観点から、⑦公正な取引条件および公正な取引方法を提供される権利、が規定されるべきであると考える。また、消費者が個別に消費者政策に対して個人意見を反映させることが困難であるとの観点から、⑧消費者団体を組織し行動する権利、も同様に消費者基本法の中で具体的な権利として列挙されるべきである。この具体的制度こそ、消費者団体に訴権を認める「消費者団体訴訟制度」である。


4 消費者・消費者団体の責務規定の創設に反対する。
 「国及び地方公共団体の責務」と「事業者の責務」を掲げることと並列的に、「消費者の責務」を規定することは誤っており、当会はこれに強く反対する。

 構造的格差がある事業者と消費者に対し、安全や公正の確保に向けて対等な「責務」を負わせることは、消費者政策の基本理念と明らかに矛盾している。例えば、消費者の安全の権利には、事業者の欠陥商品を出さない等の責務、また、国の安全性の確保等に関する責務が対応する関係になる。これについて、消費者に「合理的に行動して欠陥商品被害にあわない責務」などを対置させるならば、その結果は極めて不合理である。

 もちろん、消費者自身が消費者の権利の実現に向けて重要な役割を果たすことは大いに期待されるところであるが、それは消費者教育を十分に施すことを通じて実現すべき事柄であって、法律によって消費者の「責務」を定めることは、逆に消費者政策の後退を招きかねない。したがって、消費者については、現行法どおりの役割とすべきである。


5 苦情処理及び紛争解決の促進を図るべきである。
 消費者被害が増加の一途をたどっている中で、神奈川県を始め各地で都道府県消費生活センターの統廃合や消費者行政予算削減の動きがあり、国民生活センターにおいても直接相談を縮小・廃止する動きがある。広域的な消費者被害への対応や事業者規制権限への連携を強化するため、国及び都道府県の苦情処理の機能を拡充することが必要である。

 司法制度改革においてもADR拡充の議論が為されているが、消費者紛争に関しては消費者のおかれた情報及び交渉力等の格差に鑑みて、民間型ADRに偏さず、むしろ行政型ADRの強化が重要である。

 その意味で、消費者保護基本法に、国民生活センターを中核的機関として積極的な役割を果たす旨定めることは、支持できる。しかし、国は紛争解決機能を果たす前提として、総合的な苦情相談処理の体制を整備することが不可欠である。そこで、国の関連機関として現に総合的な苦情相談処理の窓口を有している国民生活センターについて、「情報の収集及び提供、啓発及び教育」に加えて、「苦情処理及び紛争解決」の役割を明記すべきである。

 また、消費者に身近な相談窓口として市町村の相談処理も一層拡充することが必要であることに変わりはない。この点、都道府県と市町村の両方に対し「専門的知見に基づく苦情処理のあっせんに努める責務」を定め、さらに都道府県に対し「広域的施策」、「市町村の調整」、「紛争解決」の役割を付加していることは、正当である。

 この問題は、都道府県が現行法15条の趣旨を曲解し、苦情処理は市町村が行うべきとして都道府県の消費生活センターを廃止する際の根拠としていることが背景となっている。その意味では、都道府県にも苦情処理等の責務があることを明確にするのは、消費者被害や苦情が激増している現状では、最低限必要なことである。

 しかし、「都道府県は、主として、広域にわたる施策を実施するとともに、市町村(特別区を含む)が行う施策の総合調整を行う」という文章にした場合、再び都道府県が「都道府県の主たる施策は広域及び総合調整であり、苦情処理は市町村の責務である」と強弁することも考えられる。したがって、都道府県には、苦情処理の責務とともに、広域的課題の施策の実施・市町村が行う施策の総合調整の責務という両方の責務があることを明確にしておくべきである。


6 国の統一的な消費者行政組織を至急設置すべきである。
 消費者政策を実効性あらしめるうえで、国の消費者行政組織のあり方は、極めて重要な問題である。消費者行政を分野別の産業育成省庁が付随的に担うことは、もはや不適当であることは明らかである。日本弁護士連合会はかねてから消費者庁の設置を要望しているが、少なくとも統一的な消費者行政組織が必要である。

 また、現行の消費者保護会議については、消費者代表など外部委員を加えた組織に改編し、統一的な消費者政策の大綱案を策定・実施の監視を行うようにすべきである。

平成16年3月2日
第一東京弁護士会
会長  軍司 育雄

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