• 1998.07.08
  • 声明・決議・意見書

被疑者国選弁護制度の早期実現を求める決議

 被疑者段階の弁護の重要性は今更言うまでもないことである。刑事弁護を担当する我々弁護士は、刑事弁護活動を通じて痛切に被疑者段階の弁護の重要性を感じ、その必要性を訴え続けてきた。

 現在の我が国の裁判では、自白は「不利益な事実の承認」として伝聞法則の例外とされ有力な証拠として扱われている。そのため、捜査段階においては、捜査の重点がどうしても被疑者の自白獲得に向けられるのが実情である。刑事弁護を通じ、このような現状に直面している我々弁護士には、この現状を変革するために行動し、訴える義務がある。 そこで我々弁護士は、1990年10月大分県弁護士会の当番弁護士制度をこう矢として、全国に当番弁護士制度を発足させた。当会においても1991年10月1日から当番弁護士制度を発足させ現在356名の会員が当番弁護士として活躍している。また、1997年度の当会の当番弁護士出動件数は934件であり、その数は年々増加の一途を辿っている。全国的には当番弁護士の依頼件数は1997年1年間で約23,000件に及びやはり年々増加の傾向にある。

 しかし、当番弁護士制度は我々弁護士が資金を負担し労力を提供して維持運営しており、国費の負担は一切ない。我々は資力のない被疑者のために刑事被疑者弁護援助制度を発足させ我々弁護士も少なからぬ資金負担をして維持運営に努めている。資力のない被疑者は、当番弁護士制度の下においても初回接見で無料で弁護人に相談できるだけである。刑事被疑者弁護援助制度も全ての資力のない被疑者に弁護人を付する財政的基盤はない。日本弁護士連合会はこの当番弁護士制度や刑事被疑者弁護援助制度を維持するため「当番弁護士等緊急財政基金」を設け、我々弁護士が特別会費を負担することにより、ようやく財政を維持している状況である。

 日本弁護士連合会は昨年「被疑者国選弁護制度試案」を発表した。この試案は2000年を目標に関係法規を整備して、段階的にこれを実施し、2010年には、身柄拘束を受けた全ての被疑者の請求により国選弁護人を付する制度の実現を目指すものである。この試案は、当番弁護士制度の実績の下に、市民をはじめ法曹界は勿論、学者、言論界、国会議員などから高い評価を受けている。

 冒頭に述べた通り、現在の法制度は、捜査機関に対し、強力な捜査権限を付与しているのに対し、被疑者に対して実質的防御権を付与していない。

 当会は、このような司法の現状を早急に改革するために、上記試案に基づく被疑者国選弁護制度の早期実現をここに強く求めるものである。

1998年7月
第一東京弁護士会
会長 梶 谷  剛

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